冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
まこちゃんに恵を預け、用を足しにさっと外出することはあった。だけどそれはあくまで非常時のことだ。どんなにまこちゃんが『ゆっくりしてきていいよ』と言ってくれても、はやく帰らなければと急ぐことが義務で、ひとりの時間を楽しんだら罪だと思っていた。

なぜ了には甘えられるんだろう。たぶん彼がまごうかたなき"家族"だからだ。

かつ彼が、まこちゃんと同じように、安心して恵を任せられるだけの慎重さや知識や愛情を持っているからだ。これは本当にありがたい。どんなに信頼している相手であろうと、子どもを預けられるか否かはまったく別の話だ。

心地いい風が前髪を浮かせる。背中に翼が生えたような気がした。

はじめてだ。なんの罪悪感もない、ひとりの時間。

とはいえあの興奮状態の恵を見ているのも大変だろうから、よけいなことをする気はない。大きなスーパーに入り、手早く済ませて帰ろうとカートにかごを載せた。

調味料、今日の夕食の材料、明日の朝食の材料、最低限の日用品。恵に幼児用のパック飲料を買っておこうと思い、ベビーフードのコーナーに行った。

頭の中で足りないものを考える。あとでドラッグストアのフロアにも行くべきか。ちょうど目当ての棚の前に女性が立っていたので、「すみません」と声をかけて手を伸ばし、彼女の前の商品を取る。


「あ、ごめんなさい」


こちらを向いた女性に「いえ」と返そうとして、息をのんだ。向こうもこちらの顔を確認した瞬間、顔に驚愕を張りつかせ、蒼白になる。


「早織……!」


真紀だった。


「真紀!」

「あ……」


彼女は持っていた商品をさっと棚に戻すと、逃げるように去っていった。カートを押した状態では分が悪い。私は追いかけることをはなからあきらめた。

そういえば真紀の住んでいる場所は聞いたことがなかった。この近くだとしても不思議はない。いや、そんなことより。

真紀が戻した商品を見た。哺乳瓶の、新生児用の乳首。

やっぱり見間違いじゃない。ゆったりしたジョーゼットのトップスに隠れた真紀のお腹は、ふくらんでいた。


< 75 / 149 >

この作品をシェア

pagetop