冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
数歩踏み出し、了の隣に立つと、彼の肩に親しげに片腕を乗せる。そして打って変わってひややかな態度に変わった。


「よけいなことに首を突っ込むんじゃない。きみには人の幸せを指くわえて見てるくらいがお似合いだよ」


こちらが怯むほどの冷たい声だった。いつもにこにこしている冗談好きの顔から笑みが消えると、彫刻のような端整な顔立ちが際立つ。舞塚さんが、ぐっと唇を噛みしめたのが見えた。

私は時間も気になっていた。そろそろ帰らなければ。まこちゃんをバーの仕事に遅刻させるわけにはいかない。

了もそのことを承知していたらしい。「ごめん、早織、恵をお願い」と私をドアのほうへ手振りで促した。察しよくジョージさんがにこっと微笑み、私に手を振る。


「かわいいベビーによろしく」

「ごめんなさい、私たちの話なのに」

「いえいえ。ちゃんと片をつけておきますよ。遅くならないうちにパパも帰します」


場の空気を壊さないよう、素早く消えようとドアへ向かったときだった。


「そういうのが偉そうって言うのよ!」


舞塚さんが叫んだ。私はびっくりして足を止め、振り返った。彼女は立ち上がり、憎しみのこもった目で私を見ていた。


「こんなときに中座するのも、子どもが理由なら許される。だれもなにも言えないのをわかってて、当然のように配慮を求めるのよね。あなたたち母親は、子どもがいることで優位に立ってる自覚を持つべきだわ」

「……人に気を使わせる立場であることは重々承知してるわ」

「だったらもっと申し訳なさそうにしたら?」

「あなたを満足させるために?」


時間もないというのに、言い返さずにはいられなかった。
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