Monkey-puzzle






デート…か。
デート…デート…。
私が渋谷とデート…


「わかるけど、言い過ぎだよ。」
「え?」
「声に出てるよ、真理。」

今日は久しぶりに二人とも仕事が早くあがれて、みっちゃん家で女子(とはいえない)飲み会をする事になった。

おっちゃんの居酒屋と同じ位、私のオアシスである、数少ない友人、上田光代(通称みっちゃん)とそのお部屋。
色々あって、疲れている心を思い切り癒してもらおう!みっちゃんが近くの激安スーパーで仕入れてくれた鬼ころしとチー鱈でチビチビやるぞ…と意気込んで来てみたものの、デートの事を考えるとそっちに思考が流れてしまう。


「デートって…もしかして、この前一緒に一度飲んだ後輩の男の子?」


そう、そいつです。
そいつなんだけど…


「一体どこに行けば良いのよ…ヤツと。」
「それは相手にお任せしてもいいんじゃない?」
「そ、そっか…。」


渋谷と仕事以外でどこかに出かけるって、イマイチ想像がつかないからな…

あ…おっちゃんの所とか?

二人ともいい具合に行きつけで楽しいし。
いや、それはいくら何でもデートにはならない?


他にヤツがデートで行きそうな所…全く思いつかない。
渋谷云々もそうだけど、そもそも、私が甘い雰囲気に包まれて殿方とどこぞへ二人でお出かけなんて出来るのかな?

私…やばくない?
もしかして、これがいわゆる『仕事しすぎて女子を忘れる』的な事なのかも。

いかん…鬼ころしにチー鱈してる場合じゃない!


「みっちゃん、私、デートに向けて、エステ行かなきゃ!ネイルサロンも!」

「…うん。」

「後は…服?アクセサリーも?あー渋谷の好みとか全然知らない!あ、美容院も予約しなきゃ。今、結構仕事が立て込んでるんだよな…時間取れるかな。」


スケジュールを確認しだした私にみっちゃんが呆れるように鬼ころしをチビッと飲んだ。


「…やめた方が良いよ。」
「な、何で?」
「あまりにも張り切ると、本番まで気力が持たない。」


…そう言うもんだったっけ?
張り切ったのが遠い昔過ぎて忘れちゃった。


でも、やっぱり誘ってくれたのは少なからず嬉しかったから。
ちゃんと、そこは頑張りたいなって思うんだけどな…。

色々ざわついている私とは正反対に、至って落ち着きを払っているみっちゃん。

数ヶ月前に彼氏が出来たと聞いてたけど…。

「みっちゃん…何?あのいかにもおしゃれなお酒は。」

黒い箱に盾の様な形の上が三つに波立っている桃色のマーク…あれはかの有名なシャンパンのロゼなのでは。しかもヴィンテージだったりする?もしかして。
前にクライアントさんに連れて行って頂いた少し高級なフレンチのお店で見かけた、確か。

何気にペアグラスも台所に飾ってある。あれだって有名なガラスメーカーのやつだよね…。


「あれは、ね。」


どうやら、私は急所を突いたようで、急に困った様にもじもじし出す上田光代さん。


普段、社長秘書(昇進してグループの会長秘書の一人になったと聞いた。)として容姿も体系も峰不二子か!と突っ込みたくなる位完璧な彼女。『社長や会長に恥をかかせてはいけないから』とそれをキープする努力も全く怠らない。

だけど…仕事を離れれば、鬼ころしにチー鱈をこよなく愛し、ジャージにちょんまげスタイルが板についているいわゆる『枯れ女子』。

ギャップが凄過ぎて、お付き合いする方とは長続きしないと言うのが今までで。ましてや、ここに彼氏を連れてくるなんて今までは無かった。

それが…このお世辞にも素敵とは言い難いアパートにあんなオシャレなお酒をボトルキープ出来る程の男。

そうか、上田光代を手中に収める男がついに現れたのか…。
想像もつかない男性に、尊敬の念を抱いた。


「ねえみっちゃん、彼の前でもちょんまげにジャージなの?」

「え?う、うん…。彼も『わかる、前髪邪魔だよな』って一緒にやってるかな。普通に家の中ではジャージだし。『ジャージってすごくね?こんなにリラックス出来るんだぜ!』って。
仕事の時は結構オシャレにしている人だから」


ジャージにちょんまげであのオシャレなお酒…。
なんて素敵な彼氏!


「みっちゃん!絶対その人離しちゃダメだよ!」
「そ、そうだね…って私の事よりあなたでしょ?」


いつもの柔らかい笑顔で鬼ころしをまたグラスについでくれた。


「頑張りすぎると、本番前に疲れるよ?」


今のみっちゃんに言われると、やけに響く。これが『リア充女子』のパワーなのかな。


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