Monkey-puzzle
◇◇





『渋谷…好き』


麻薬の様な言葉が体全体に染み渡って回してる腕に力を込めると、啄むようなキスを何度も何度も繰り返す。



俺だってね?
こんな風に好きだって言われたらもっと濃厚なヤツしたいよ?
いっそここで真理さん頂く?なんて勢いだけど。

まあ、会社だしね…。

いや。
山田部長は不在だけど。


ほら、人がいつ来るか分からないし。

いや。
俺調べでは、書庫整理部はほぼ真理さんしか頻繁には来ない(時々ねっきーが来てるけど)


………。

……じゃあ、いっか。



簡単に外れた枷
真理さんの唇を再び塞いで舌先でそこを割開くと深いキスへと変えた。


「んん…っ」

腕の中の身体がぴくりと揺れて首に回っていた真理さんの腕が俺を押す。


「…やめよ。山田部長が帰って来るって…。」
「来ないよ。」
「ひ、人が…。」
「来ない。」

頑な俺に潤った目で困った様に俯く真理さんのまつげが少し震えてる。


あ~…どうしようもなく、可愛い。


「ねえ、今日の夜は?
昨日の続きでうちに来る?」

「き、昨日の…。」

「そ、昨日の続き…と言うより、まだ俺と離れたい?」


真理さんの気持ちもちゃんと聞けたし、こうやって受け入れてくれてんだから。他に離れる理由なんて無いでしょ。

困惑する真理さんの尖った唇にかぶりつきたい衝動を抑えて、『そうだよね』と言う答えをイイコに待つ。

だけど、後悔したよ。待ってたの。


「…コンペが終わるまでは離れたい。」

俺もこの人の事、まだまだ見くびっているのかも。











確かに覚悟は決めた。
決めたからには堂々と付き合いたい。

付き合いたいんだけどさ…。

ふと頭を過ったコンペの事。

コンペ…毎年私、頑張りすぎてみるも無惨な廃人の様になってるからな。

チームを組んであれだと、今年は全部一人でやるんだから相当廃人になるのは間違いない。

多分、渋谷とどうのなんてプライベートを考える余裕も無い。
逆に、渋谷に夢中になってコンペがおざなりになる可能性も充分にある。

それに、亨と田所さんが回したメールが下火になって来たとはいえ、私はやっぱり三課の嫌われ者なわけで。
そんな私と渋谷が繋がっているとなったらまた色んなある事無い事話が膨らむんじゃないかな。
『アイデアをパクった』とか『先回りして、デザイナー抑えた』とか…。

そう言う動揺は両者にとって良くないよね…。

うん、ここは断腸の思いで、コンペが終わるまでは我慢だ。



「絶対ヤダ。」

「…渋谷だって毎年コンペ参加していたみたいだからわかるでしょ?通常の仕事に加えてコンペの準備しなきゃいけないから相当忙しいよ?」

「それと真理さんと離れるのとは別の話。
大体、俺の事見張るんじゃなかったの?」
…いや、『見張る』なんて言ってないよ?『渡さない』とは言ったけど。


「ふーん…俺が誰かにとられてもいいんだ。そんなね、俺が一人でフラフラしてたら、世の女子がほっとかないよ?」

じ、自分で言うか…。

「ああ、そっか、もう今日がピークなわけだ、真理さんの中では。
そっか俺もう相手にされなくなんだ。」

「ち、違うってあの…」

「良いって、別に。俺は真理さんに好きだって言って貰えただけで嬉しかったから。」

「し、渋谷…」

渋谷の不機嫌そうな物言いに戸惑った。
この歳になってこんな事にオロオロするなんて、私はどれだけ恋愛偏差値が低いんだろうと心の中で自分に呆れる。

とにかく、このままではいけないはず。機嫌を取らないと。


機嫌を…取る。

…どうやって?



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