その花が永遠に咲き続けますように
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。
いや、確かに元々はそういう話だったのだけれど、私はそのテストに不合格になったはずだ。もう一回チャンスをもらった訳ではない。ただ、改めて完成した曲をもう一度聴いてほしかっただけだ。それなのに……当初の約束の武道館?


「ばっ、馬鹿なこと言わないで! あなたが勝手に決めることじゃないわ!」

そう一喝するのは勿論キリシマさんだ。彼女は元々前座の件には反対だったし、そうでなくても彼女の意見はもっともだと思う。
けれど、レイは顔色一つ変えず、言い返す。


「お前だって、今のこいつの歌を聴いて何も思わなかった訳じゃないだろうが」

「お前って言うな! ……それは、それはそうかもしれないけど……」

キリシマさんが、迷っている? 迷っているということは、口では反対しつつも、ステージに立たせる可能性も考えているということ……?


「それならいいだろ。今のこいつの歌を俺等のステージに立たせることに、何のデメリットがある」

「メ、メリットがある訳でもないわ」

「そうか? つぅか、本当はお前が一番こいつをステージに立たせたいんじゃないのか? この無名の女を、バンドを、プロデュースしたいと思って」


え、え? プロデュースって何? 別に私は、私達は、デビューしたいとかそんな大それたことを考えている訳じゃない。


「あ、あのーー」

「ああもう! わかったわよっ!」

つい口を挟んだ私の言葉を遮り、キリシマさんが叫ぶように、意を決したように、大きく頷く。そして私の方に真っ直ぐに向き直り、


「ステージに立ったからと言って、デビュー出来るとかそういう訳じゃないからな! あくまで素人枠として、ある種の話題の為に出演してもらうだけよ! いいわね!」


またしても、一瞬何を言われているのかわからなかった。

だけど、勢いよく言われたせいか、すぐに答えなければならない気がしてつい、


「はっ、はい!」

と答えてしまった。


……私達、本当に武道館に立つことに決まってしまった。


……だけど、永君はきっとそのステージに立つことは出来ない。

それなのに、了承するべきなのだろうか? この件は断るべきなんじゃないだろうか?


……だけど、私一人の考えでは答えが出そうになった。
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