その花が永遠に咲き続けますように
七月。空は真っ青で、ところどころに白い雲が漂っている。気温はここ数日に比べて随分高めで油断すると汗が出てきそうだ。ああ夏だなと当たり前のことを思いながら歩き慣れた道を自宅に向かって歩いていく。


その途中で、どうやら道に迷っている様子のおばあさんがいたから声を掛け、少しだけ遠回りして道案内した。


おばあさんは別れ際にお礼を言ってくれた後、「こんなに暑いのに、風邪かい?」と私に聞いてきた。顔の半分隠れるくらいの大きいサイズのマスクを私がしていたからだろう。私は「ええ、まあ」なんて曖昧に答え、おばあさんと別れた。


夏風邪ひくやつはなんとやら、とおばあさんに思われてしまっただろうか、なんていらない心配をしてみる。
そもそもこんなマスク、必要ない気がする。顔を隠すほど有名人じゃあるまいし。でも、事務所からマスク着用の指示を受けているから仕方ない。
だけどやっぱり、芸能人気取りで何だか恥ずかしい。
家まであと五分くらいだし、マスク取ってしまおうかなーーと思ったまさにその瞬間、近くから若い女の子の声で「seeds」という言葉が聞こえてきて、慌てて手を引っ込めた。


恐る恐る声のした方を振り返ると、制服を着た高校生と思われる女の子二人組が、携帯を片手に話しているだけだった。


だけど何となく、その会話の内容に耳を傾けてしまう。



「えーっ、seeds知らないの? 最近流行ってるんだよー」

「へぇ〜、知らないや。バンドってrowdyしか興味ないから。そのseedsとrowdyってどっちが人気なの?」

「そりゃあrowdyだけど……。あ、そう言えばrowdyが初めて日本でライブした時、seedsが前座したんだよー。とにかくseedsの曲も聴いてみてよ! 良曲ばっかりなんだよ! 今ちょうどCD持ってるから貸してあげる! メンバーは五人共、同い年で二十歳なんだって!」

「へえ〜……って、五人組? このCDジャケット、四人しか写ってないけど……」
< 178 / 183 >

この作品をシェア

pagetop