珈琲プリンスと苦い恋の始まり
(あれは…)


あの雨の日に店に飛び込んできた女性に似ているような。あの時は髪型がキャップで隠れていたから、はっきり彼女とは思えないんだが。



「どうかしましたか?」


後ろから付いて来たセンター長に問われ、俺は振り向きながら「いや、何でも」と首を横に振る。

それでは…と挨拶をして見送られ、玄関を潜り抜けながらさっき思い出した女性のことを考えていた。



あの時、彼女が言っていた桜というのは何だろうか。
それとなく親父に聞いてみたら知っているのだろうか。



(……まあ俺には関係もないことだけどな)


いつでもいいか、と頭を切り替えて車に乗り込む。
エンジンを掛けてアクセルを踏み込み、そのまま店へと向かって走らせた___。


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