珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「幸いなことに近くに民族資料館みたいな建物があるんですよ。そこに頼んで、古民家的な家具や道具を借り入れることも可能です。

マスターは珈琲を淹れる為の道具だけを持ち込んで下さい。後は私どもで準備を万全にしますから」


頭の中でいろいろと試行錯誤しているらしい。
それで良いならよろしくお願いします…と請け負い、固く握手を交わして面談室の外へ出た。


玄関への道すがら、大広間では利用者達が思い思いのサービスを受けている。

本棚の前で読書に勤しむ者がいるかと思えば、小上がりでは喋り合う人達もいる。

トレーニング器具に向かって懸命にリハビリを行う者もいたり、入浴後らしい格好で赤い顔をしているお年寄り達の姿もある。


成る程こういう姿ばかりを見ていると、このままでは駄目だと思うようになるのかもしれない。
何かしら新しいものを取り入れていかなければいけない、と考えてしまうのも無理はない。



「……ん?」


利用者達の間に目を向けていると、一人の女性スタッフが視界に入った。

スポーティなブルーのTシャツを着て、七分丈のネイビージャージを穿いている小柄な女性だ。


< 15 / 279 >

この作品をシェア

pagetop