珈琲プリンスと苦い恋の始まり
いつも見てる雰囲気と今日は何だか違う。
変に背中を丸めてる様な気がして、肩も落ちてるように感じた。



「具合でも悪いの?」


看護師という職業がら、つい体調を疑ってしまう。
珈琲を差し出しながら彼は小さく笑い、「何処もどうも無いよ」と言った。


「本当に?」


しつこく訊き直してしまい、我ながら心配症過ぎると焦ったが。


「気にしてくれるんだ。なんか嬉しいな」


目の前にいる彼はふわっと笑い、その雰囲気はいつも電話で話す感じと変わらないと安心した。


「そういうことを言えるのなら大丈夫ね。珈琲ありがとう」


トレイに乗せたカップを二つ持ち上げる。
彼は職場だというのを十分考慮してるのか、茶化しもしないで「有難うございました」とお礼を言った。

その声に振り向かずに会議室を出た。
それが彼との最後になると知ってたら、もっとよく振り返って見てた筈だと思うけど。


この時の私は、少し油断をし始めてたんだ。

彼が会わなくても電話をしてくれるから、いつでも彼とは話が出来ると思って安心をし始めていた。


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