珈琲プリンスと苦い恋の始まり
……そう思うと、今だって畏れ多い。
こんな山の麓にあるお寺まで追いかけて来て、話を聞いて欲しい…と願われるのも烏滸がましい。



「……ごめんだなんて」


謝るのは本当はこっち。
十分それは分かってる。


「貴方は別に何も悪くなんてないでしょ。自分の務める義務を果たす為に、あの店を去っただけなんだから」


ただ、自分の立場を言えなかっただけ。
それが嘘ではなく、言えない事情があった…というだけだ。


「……もう十分に分かったからいいよ。大事な仕事が待ってるんでしょ。早くそっちに帰らないと駄目なんじゃない?」


此処は貴方のような人がいる場所じゃない。
海と空と山しかなくて、退屈で代わり映えのしない毎日が流れてるだけの町。


御曹司が棲み続けられる場所でもない。
煌びやかさも派手さもなくて、古びた民家と年寄りが多いだけの町だ__。


「何を言ってるんだ?俺は此処に帰りたくて、突貫工事の様に自分の務めを果たしてきたのに」


焦って戻ってきたと話す彼の言葉が嘘に思える。
そう言ってまた、彼はきっと何処かに行ってしまう……。


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