その恋に落ちるのは、彼の罠に掛かるということ
じ……っと彼の顔をただ黙って見つめていると、彼は困った様にフッと笑った。


「すぐに信じられないくらい、嬉しかったんだ」

「嬉し、かった……?」

「勿論、君の口から聞いた言葉ならちゃんと信じてすぐにそれに応えたけれど、他人からの言葉だったから。まさかそんな都合良く、君が俺を好きになる訳ないって、そんな風に考えてたから、ああ言ってしまったんだ」

「……じゃあ、課長はつまり、私のこと……?」

「……言うまでもなく、わかるだろ?」


そう言ってくすっと笑う課長は、核心に触れる二文字は言ってくれる気はなさそうな様子だ。



「ちゃ、ちゃんと言ってほしいです」

「言わなくてもわかることをいちいち言うのは嫌いだ。効率が悪い」

「こ、効率って」

出世の早いエリートは普段から効率だとかそんなことばかり考えて生きているのだろうか。
だけど、そうだとしても……。


「私は、聞きたいです。たとえ期待通りの答えじゃなかったとしても、課長の口から、課長の言葉で、ちゃんと聞きたい」

「……あのさ」

課長は呆れた様な口調でそう言うと、溜め息を一つ吐いた。


「期待通りの答えじゃない可能性があると思ってるのか?」

「え? そりゃあ……」

「嫌いとか、好きじゃないとか?」

「そうですね……」

「ある訳ないだろ、そんな答え」

言い終わるのとほぼ同時に、課長に唇を奪われる。

彼の唇は、とても熱い。

すぐに口内に舌が侵入してきて、私のそれを絡め取り、味わう。


「ん、ぅ……」

必死にそれに応えようとするけれど、全身に力が入らない。それどころか、どんどん力が抜けていく。奪われていく。
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