惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

違うことはないけれど、泣き明かしたことは知られたくない。期限付きの関係を承知のうえで付き合っておいて泣くなんて。陽介さんに落ち度はなにもない。


「お兄さん」


陽介さんが重みをもたせてゆっくりと口を開く。


「……あなたにお兄さん呼ばわりされたくはありません」
「申し訳ありません。ですが、なにか勘違いをされているようです」
「勘違い?」


兄の身体に入っていた力が瞬間和らぐ。


「香奈もよく聞いて」


兄の背中にかくまわれたような状態になっている私に、陽介さんは首を伸ばして言った。


「香奈さんとのことは期限を付けた覚えもなければ、弄んでもいません。自分の気持ちは伝えたつもりだったのですが、行き違いがあったようで香奈さんを不安がらせてしまいました」
「行き違い? それじゃ、怪我が治るまで恋人のふりをしていたというのは?」
「ふりじゃなく本気で付き合ってきました。怪我が治るまでと期限を区切ってもいません」

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