惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
「お兄さん、大変失礼いたしました。香奈さんのことはこれからも大切にしていきますので、ご心配には及びません」
「つまり、俺は早く退散しろというわけか」
陽介さんが頭を下げると、兄がいじけたように口を尖らせる。私を心配してきてくれたのに急に蚊帳の外の扱いをされたのだから、不満に思うのも当然。
「違うよ、お兄ちゃん。邪魔になんてしてない。心配してくれてありがとう」
「大事な妹なんだから心配して当たり前じゃないか」
兄は腰に手を当てて眉をひそめた。
小さい頃からそうだった。私になにかあると真っ先に駆けつけ、『心配しなくて大丈夫だから』と言う私に、兄のセリフは決まってそれだった。いつも溢れるほどの愛情で私に接してくれていたのだ。
強烈なシスコン体質なところがたまに傷だけど、なんだかんだ言って私は兄のことが好き。
「もしも今度こんなふうに香奈を傷つけるようなことがあったら、そのときは――」
「それは絶対にないと誓います」
兄の言葉を遮り陽介さんが毅然と言い切る。
一瞬だけ虚を突かれたような顔をした兄は、すぐにその表情を解いた。肩を上下させて大きく息を吐いたあと。