惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

「よろしく頼んだぞ」


陽介さんの背中を軽く叩き、私に笑顔を向けてから玄関を出ていった。
思いがけない言葉を聞いたあとだけに、改めて陽介さんとふたりきりになると気恥ずかしい。


「森健太郎との噂はガセなんだな?」


唐突に森くんの話題を出されて混乱する。
そうだった。陽介さんとは、事故が起きる直前にその話の途中だったのだ。


「森くんは、陽介さんと私のことが会社で噂になったら困るだろうと心配してくれて……」
「それなら余計なことだ。俺は香奈とのことが公になっても困ることはなにもない」


はっきりと断言してくれるところが、また嬉しい。


「香奈、手を見せて」


言われるままに左手を出す。まだ違和感は残っているけれど、ギプスをしているよりはずっといい。


「治ってよかった」


陽介さんがそこにキスを落とし、そのまま私を引き寄せる。

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