惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
思いがけない同居


兄に陽介さんを紹介して一週間。陽介さんから不意打ちのキスをされてからも一週間が過ぎていった。

ほぼ毎朝のように私に朝食を届けていた兄は、あの日以来めっきり顔を出さなくなった。目撃したキスシーンの相乗効果もあったのか、効果はてきめん。これで兄に新しい彼女ができれば、もっといいのだけど。

あのキス以降、寝る前の『おやすみ』というメールはかろうじて交わしているけれど、忙しい陽介さんとは会っていない。社内で見かけることがあっても、なんと声を掛ければいいのかわからず、ひとりドキドキと胸を高鳴らせてその姿を見つめるだけ。あの夜のキスが蘇って顔が熱くなり、その度にこれ以上惹かれたらダメだと強く自分に言い聞かせていた。


「では、そろそろミーティングを始めましょう」


企画事業部内に岩崎部長が声を掛けたのは、午後二時を回った頃だった。みんながお昼から戻り、仕事がひと段落するのを待ってくれていたみたいだ。今回のミーティングの趣旨は、進行中のアルカディアリゾート軽井沢のコンセプトの具体的な落とし込み。企画事業部のメンバー六名全員が、すぐ隣の部屋に集まった。


「今日は工藤副社長も同席することになっています」


岩崎部長の言葉に、思わず「えっ」なんて声が出る。

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