惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

陽介さんの唇が、再び私の唇に触れる。優しく啄んでは、唇が包み込まれる。今度は触れるだけでは済まされない予感を私に抱かせるキスだった。

私の緊張を解きほぐすようにゆっくりと唇が重ねられる。完全に陽介さんのペースに飲み込まれていた。

必死に抑えていた気持ちが溢れ出す。
陽介さんが好き。
副社長だから。期間限定だから。そういった理由で押し込めていた感情は、心の奥底に留めておけないほどに大きくなっていた。

陽介さんが私のことを好きじゃなくてもいい。疑似恋愛を楽しんでいるだけでもいい。
徐々に深くなるキスに私自身の歯止めも効かなかった。

長い長いキスが止み、そっと唇が離れる。陽介さんは私を引き寄せ、抱き締めた。


「香奈、好きだよ……」


思いがけない言葉だった。

今、好きって言ったんだよね……?

鼓動が異常な速度で刻み始める。

陽介さんが私のことを好き? そんなミラクルなことがある? もしかしたら聞き間違いじゃないのかな。
……そうだよ。きっとそう。陽介さんが私のことを好きになるはずがない。

仮に『好き』だったとしても、それは疑似恋愛をより楽しむための余興みたいなもの。どうせなら盛り上げたいという意図があるのかもしれない。

そうして私は、陽介さんの言葉の意図を探りながら、いつのまにか彼の腕に抱かれて眠りに着いたのだった。

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