私の本音は、あなたの為に。
(私の唯一の家族…ママは、私の事が分からない…忘れちゃってるから)


(こんな事、口が裂けてもママには言えないよ…)



けれど、五十嵐の前での私は、


“普通の女子高校生”


のうちの1人として捉えられている。


だから、私にも秘密があるなんて気付かせるような真似は到底出来なくて。


「五十嵐なら、大丈夫だよ」


私は、自分の心情を悟られない様にただひたすらに五十嵐の背中を擦り続けていた。


私の言葉に感極まったのか、彼はとうとう嗚咽を漏らしながら号泣してしまって。


今までの何かに対する恐怖と押し込めた感情が、大粒の涙となって五十嵐の頬を伝うのが見える。


ポタリポタリと、そのうちの何粒かは私のスカートの上に落ちて。


せきを切ったように流れ落ちる涙を何度も拭い、


「ごめん……安藤、ごめんね……」


と、彼は私にひたすらに謝り続ける。


「謝らないで?…五十嵐、私は大丈夫だから」


笑顔でそう嘘をつく私は、どれ程汚染されてしまったのだろう。


汚れすぎて、自分の口元に浮かぶ笑みが何を示しているのかすら分からない。


本当は、出来ることなら、私も五十嵐と一緒に泣きたいのに。



(私も、怖いよ……)


いつ演技が誰かにばれるかもしれないという恐怖と、誰かに知ってもらいたいという願望。
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