遅すぎた初恋
真実
望との騒動のあと、邸の中に戻り星羅に早く暖かくして寝るように、と伝えて、書斎に入った。

望の肩を落とした後ろ姿を見送っている時、何故か言い知れぬ虚しさが、身体を駆け巡っていった。
とても眠れる状態ではないと、書斎でウイスキーを煽りながら物思いにふけっている。
望に自分を重ね、あれは私だ、と思う。
望の行動は私の根底にあるものを映し出しているに過ぎない。
彼女の身体が欲しい。彼女の心が欲しい。彼女に愛されたい。と願う邪な心。

一度は衝動に駆られて彼女にキスをしてしまった。弟の妻なのにどうしても押さえられなかった…。最低な男だ。

だが、私の好意をただの親切だと言い切られたら、私の心はどうなるのだろう。

出口の見えない思いに一人身悶えしていると、星羅がドアを開け、中に入って来た。

拷問だな。と心で呟き。「どうしたんだ?随分と冷やしてしまっただろ。身体は大丈夫か?」と聞いてやる。「大丈夫です。寝付けなくて本を読みに」と言ってくるので、「今の時間から、ここで読むのは感心しないから、気に入ったのがあれば持っていきなさい。」と促した。

本を探しながら星羅が「お義兄さんはどうするんですか?」と聞いてくるので「まだ、居る。」と答えると「じゃあ、私も」と言ってくる。

「駄目だ!君は身重なんだから、探したら部屋に戻りなさい。」

と少しきつめに言った。
< 77 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop