泣き跡に一輪の花Ⅱ~Victim or Notice~。
ピンポーン。
俺がインターホンを鳴らすと、潤は慌ててドアを開けに来てくれた。
「空我?どうした?」
「……母さんと喧嘩した。潤、今日泊めて」
「ん。フッ。……三年前もこんなことあったよな」
潤は笑ってそんなことを言った。
「三年前?」
「ああ。空我が俺に傷を見せてくれた日。その日も母親と喧嘩して俺の家に来ただろ。……空我って母親のことで何かあると、直ぐに俺を頼るよな」
「……迷惑?」
「いや? むしろ嬉しいよ。空我が俺を頼ってくれるようになって、凄く嬉しい」
潤が俺の頭を撫でて、楽しそうに笑う。
「……あっそ」
俺は恥ずかしくなって、顔を伏せた。
「空我、飯は食った?」
頭から手を離して、潤は首を傾げる。
「……いや、食べてない」
「そっか。じゃあ飯も食わせてやるから、上がれよ」
「……うん。お邪魔します」
そう言うと、俺は玄関で靴を脱いでから、キッチンの方に向かう潤の後を追った。
「手洗って」
そういうと、潤はキッチンにある流しの蛇口を回して、水を出してくれた。
俺は潤が出してくれた水で手を洗った。
潤は俺が手を洗い終わると水を止めて、キッチンの隣のダイニングに行った。
「はい」
潤がダイニングの隅にある引き出しからタオルを取って、それを俺に渡してくる。
「……ありがと」
俺はタオルを受け取って、手を吹いた。
「ん。飯用意するから、ソファにでも座って待ってて」
潤がダイニングの中央にあるテーブルの前に置かれたソファを顎で示す。
「わかった」
俺は小さな声でそう言って、ソファに腰を下ろした。
「はぁ……」
俺はため息を吐いて、ソファによりかかった。
俺は別に母さんが嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。
母さんが俺に誕生日プレゼントをくれたことはとても嬉しく思っている。
でも俺は母さんとどう向き合えばいいのか未だにわからない。
最近は虐待から解放されたばかりの時みたいに母さんと話す度に過呼吸になったり嘔吐をしたりはしなくなったけど、そうなったからといって和やかに話せるわけではない。
俺は多分、母さんとは一生和やかに話せない。……いつか仲良くできたらなとは思うけれど、きっとそんな日は一生来ない。