くまさんとうさぎさんの秘密

ネットワーク

by熊谷 ひとみ
リビングに誰もいなくて、ちょっとほっとした。
家出少女について、学校に届けるのか、おうちに連絡するのか、ちゃんと話を聞いて判断しなくちゃならないと思っていた。昨日までは。
でも、もう、面倒だし、彼女がここにいたことも、知らないふりしたい気がしてきた。
だいたい、高校生の息子のことに親がどこまで介入するもんなんだろう。
自分が高校の時のことを思い出してみても、もう一人暮らしの子もいたし、
外泊について、一応の報告はしても、確認までは親もしなかった気がする。
自分は、親子関係が良い家で育ったけど、家庭が複雑な子だと何も話さない家もあったかもしれない。
トラブルなんかもありながら、でも、みんなたくましくて、何とかなってた。

義明が中学校までは、仕事も自重していた。絶対に、勤務時間外に店に残ったりもしなかった。
新オーナーになってから、特に義明が店に出入りするようになってから、勤務時間が曖昧になってしまった。
急展開だ。

ふいに、リビングのテーブルの上に、30㎝くらいの義明の姿が浮かび上がった。
腕を組んで、不機嫌そうにこちらを見ている。
「ひとみ」と、彼は言った。
「昨日は、俺の母親として話聞いてくれるって言ったじゃん」
「ごめん。。義明、どこにいるの??」私は、ちょっと上やら下やら見まわした。
「家にいるよ。。お泊りとか、この、不良。親に言いつけちゃうよ。」
「やめてよ。。」
本物の義明は、私の後ろ、リビングの入り口に立ってた。
「どこいたんだよ。」
「店に泊ったのよ。突然悪かったけど、他の人は時々やってることなのよ。。」
「他の人ねえ。。誰と一緒だったのか、ちょっと想像できてヤダ。」
「あの子は、どうなったの?」
「バイトに行ってから、うちに来るって。」
「よくわかんないけど、お金もないのね。」
「そうみたい。」
「あの時、何があったの?あのおじさん、前嶋さんが「困ります」って言ったら、あっさり帰ったらしいよ。あんだけはでにぶっとばされてたけど、どこも怪我もなかったみたい」
「そりゃ、、大振りな方が衝撃は少ないんだよ。頭しっかりひいてるし、かかとがソファーの真ん中にあたるだけだったはず。絶対怪我なんかさせないよ。」
「自分を過信しすぎないでね。あの人何やったわけ??」
「口論になってるのは見てたんだ。ちょっと酔っぱらいすぎてるなって。そんで、見てたら、女の子引き倒して床に放り投げてたから、落ち着いてくださいって声かけたんだよ。やられてんのが同じクラスの子とは気が付いてなかった。」
「あの子は何してたの?」
「よくよく話聞いたら、婚約者らしくて、あの日あの場所で何してたかというと、「婚約破棄」を申し出てたらしい。」
「ええっ」


「つまり、あんた、あのおっちゃんは彼女の婚約者で、、
義明は、、酒の席で婚約破棄を言い渡されて逆上した彼女の婚約者をぶん投げて、
それでもって彼女をうちにさらってきたということになるわけ??
それから一連の婚約破棄については、どちらのご両親にも何の説明もなされておらずって、、
あんたあの子のこといったいどうするつもりなわけ???」
「親のところに帰らないって、、婚約解消できないから帰らないとか、児童相談所とかそういう範疇にならない?高校生ってどうなんの?何かインドの農村の幼な妻の話を思い出したわ。。
そもそも、婚約破棄って慰謝料求められても仕方ないことだけど、未成年が暴力振るわれそうになった場合どうなるわけ??」
そもそも、親も知ってて、どうして年齢詐称なんてことになるのか、誰に何から話すべきかも分からない。
「俺、、別れたければ別れられなきゃだめだなって思う。別れられない状況に追い込まれてるって、やっぱおかしいなって思う。多分、根本的には、宇佐美にも悪いところがあるんだけど、、やっぱりこじれたの解消するにあたっては、ちょっと大人の助けがないのは可哀そうだなって。」
「ごめんね。うちには、そういう種類の頼れる大人の人手がないわ。。」
「俺、ばあちゃんに来てもらおうかな。。」
「その、、婚約者ぶん投げた男が、親戚引き連れて介入するわけ?。」
行き詰まり。。
「あんとき、ちょうど通りすがりに矢代さんにオモチャのこと相談たんだよ。自分の席離れて、八代さんが来てるっていうから、声かけに行ったんだ。八代さん、前嶋さんところはトラブルあったときの駆けつけも引き受けてるし、八代さんも何があったか見てる。俺、警備会社の立場で動いたってことでいいと思うんだけど。。実際、最初はそのつもりだったし。」
「なるほどね。じゃ、彼女が婚約者と話す時には矢代君に付き添ってもらったらどうよ。」
矢代君は、義明がものすごーくちびっこの頃、道場にいたお兄さんだった。
一時は警察の機動隊にいたが、警察をやめて今の仕事に就いた。
「1つの選択肢かな。。とりあえず、宇佐美は昨日実家に帰ろうとしたけどタイミング悪くて出直すことにしたらしい。
だから、ちょっと待とうよ。俺が思うに、多分、解決までは長くなるんだろえけど、解決しようがしまいが、とりあえず身の拠り所は決まると思う。それまで置いてやってよ。」
「私、事情は知らなかったことにしていい??テスト前にみんなで勉強会してた以外何も知らないってことで黙秘権行使させてください。」
「俺も、今んところ黙秘権賛成。とりあえず、もうちょっと周りの出方を見なきゃだね。」
「親巻き込んで、出方見なきゃだねとか、。。」
(ガキンチョのトラブルに大人巻き込むんじゃないわよ。。)

話は停滞したので、話題が変わった。
義明も私も、白黒急ぐ方ではない。義明なんか、グレーはグレーとして、じわじわとその真相が浮かび上がってくるのを楽しんでるようなところもある。
「ひとみ、ちゃんとしてくれそうな人と付き合ってる?」
「ちゃんとって??」
「ちゃんとはちゃんとでしょ」
「お付き合いしてる人はいます。真面目な人だよ。でも、私とどうしたいのかは、分かんない。。」
義明は、腕組みした。
「前嶋さん、子どもほしい人?いらない人?結婚したい人?したくない人?」
「知らないわよっっ」
ちょっとまだ、息子とその話はしたくないかな。。








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