くまさんとうさぎさんの秘密

神様、仏様、イエス様

「父親は何て言ってるの??」と、くまさんは、言った。
「父親はいない。」と、ひとみさんは言った。
もちろん、そんな訳はなかった。
「俺たち、前嶋さんに殺されるんじゃないの??」くまさんは、私の方を見た。
「私は、よく分かんないよ」何言っていいのか分からない。。ひとみさんは、父親が前嶋さんであることを否定しなかった。
「俺、前嶋さん、子どもがいらない人でも、結婚したくない人でもないと思うんだけど。。俺が先にこの話聞いたなんて分かったら、本気で絞め殺されるかもしれないと思う。」

ひとみさんは、くまさんと目をそらしながら、こちらをちらちらと見ながら、言った。
「できることは全部自分でやる。でも、生まれてきておめでとうって。この子とも友達になってほしい。兄弟だって、認めてやってほしいの。逃げも隠れもせずに、ここで産もうと思ってるから。。義明に可愛がられるように育てるから。私にしか好かれない子に育てたくないの。どんなに辛くても、頑張りたいから、優ちゃん、先生として教えてほしい。」

ひとみさんは、前嶋さんと付き合っているとは、実は一言も言わない。
私は、あんまり前嶋さんのことは分からないから、そもそも前嶋さんが、妊娠中のひとみさんにとってどういう存在なのか今一つ不明瞭な部分がある。

妊娠中のひとみさんを置いて、4月になったら、だれもこの家にいなくなることが決まっている。。
私は長女で、何回もお母さんの妊婦姿を見てる。保育園のお母さんたちも、2人目、3人目と、家族や町の人たちといたわりあいながら生んでいる。
私は、確かに、妊婦さん慣れしている。

「あの。。私、バイトあるし、寮に入ったら、顔出すって言ったって、時間的にきついものがあると思う。私で役に立ちそうなら、ここに来年度も置いてもらっていいかな??バイト先も、いざとなったら駆けつけるとか、そういうことには理解ありそうだし。」
ひとみさんが、ちょっとホッとした顔をしたのが分かる。

「ちょっと待て。保留。」と、くまさんが遮った。

「とりあえず、俺も一晩考えさせてほしい。今日は解散。結論急いだらだめだ。」

ひとみさんは、また、疲れた顔をした。

「優ちゃん、やさしいから、迷惑でも引き受けちゃうのかなって。ちゃんと、優ちゃんの大学生活優先しなきゃだよね。。」

(あの、寮も安いとはいえ、お金かかるんで、ただで置いてもらえるなら、いざという時くらい走りますよ。そもそも、私なんてやさしいも何もただの居候で、顎で使ってもらって大丈夫です。)と、心の中でつぶやいた。
言葉にしなかったのは、くまさんがストップかけたのには、多分理由があるから。。



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