くまさんとうさぎさんの秘密

森の中

by熊谷義明

久しぶりにあゆみに会ったが、宇佐美とえらい仲良くなっていた。
あゆみはツンデレちゃんだが、宇佐美は分かりやすい。
宇佐美が、うまいことあゆみを口説き落としちゃったのかもしれない。

「学校では、よく会うの?」と聞いたら、フランス語と数学と計算機演習、つまり、パソコンの授業だけ一緒だったと話していた。
「計算機演習も、全然レベル低いの。プログラミングしましょうとかっていうんだけど、書いてある通りにタイピングするだけ。しかもさ、書いてあることが間違ってんの。全員ループ発生みたいな。笑っちゃうよ。言われたとおりにやったらエラー発生なんだもん。」
宇佐美は、笑った。
「私は、最後まで仕上がんなかった」と、あゆみは淡々と話していた。

「そうそう、よく、購買の喫茶で会うよね。」あゆみが言った。
「お昼、学食より喫茶の方が美味しいんだもん。サンドイッチとかパフェとか。」宇佐美が笑った。

「ちゃんとゴハン食べてから食ってる?お前らんとこって、栄養バランスとれたランチが売りじゃなかったっけ。何か、玄米ご飯とか品目数が多いとか少ないとか。油とりすぎんなよ。」と、俺は言った。

宇佐美が、笑った。

俺は、あゆみが、目配せしたことに気が付いていなかった。
(ほら、やっぱりくどくど言ってるよ)

「くまさんってさ、理系男子だよね。うちのパフェ見ても、成分計算しはじめそーう。」
女子二人、やっぱり顔を見合わせて笑った。やりにくくなったような気もするけど、宇佐美が笑ってるのは悪くない。

宇佐美が、弾むように歩き出したので、俺はあゆみに言った。
「ありがとうな。宇佐美と友達になってくれて。」

あゆみは、俺の方を振り返った。
「バカみたい。私は、友達は自分で選んでるよ。」

あゆみが立ち止まったので、先を歩く宇佐美との間に距離が開いた。
「くまさんさ、余裕ぶっこいてるけど、あの子だってモテるよ。本気になる男だっているかもよ。女子大だって、出会いは多いんだからね。何か、めちゃめちゃお洒落な男と、よくキャンパス内一緒に歩いてるよ。部活で何かあったね。絶対に。」
「何やってんだよあいつ。。。」俺は、高3で再会した時の泣きかけの宇佐美の顔をふっと思い出した。
「何って、、宇佐ちゃんバカにしてんじゃないよ。男の方も本気かもよ。宇佐ちゃんに彼氏できちゃったらどうすんの???」
体温が上がった気がした。
「俺と宇佐美は、そういうこと止めれる間柄じゃないよ。あいつが変な奴に引っかかってほしくないとは思うけど。」
「それじゃ、変な奴じゃなくてまともな奴だったら、くまさんちから嫁に出すわけ??」

あゆみは、呆れた顔で首をかしげた。少し先で、立ち止まった宇佐美も、首をかしげた。

本当は、実は、宇佐美のお父さんが、俺が一人の時に、うちに来たことがあった。
宇佐美が転がり込んできて、進路が決まる前の頃だ。。

俺は、宇佐美の親父さんに、約束している。
「優那さんの方からこの家を出ることがない限り、こちらの都合で追い出したりしません。」
ところが、志望校が決まって、当の宇佐美本人が寮に入る気満々だったから、この事は本人には話さないままになっていた。

俺は、実は、宇佐美が小さかった時のことを覚えている。
黒目勝ちで、ちびで、お母さんの趣味のひらひらの服を着ていた。
俺は、四月生まれででかかったけど、宇佐美は、ほぼ一学年下の三月生まれで、ちびだった。
家族でいちご狩りに一緒に行った。あれが、宇佐美優那だと、再会して、しばらくしてから気がついた。

イチゴ狩りの日、宇佐美は、ずっと俺のあとをついてきてはニコニコした。何も言わないので、ふと、「赤いいちごが甘いよ。」と、宇佐美の方にいちごを差し出した。俺は、三歳半くらいだったと聞いている。記憶の中でも、一番古い方だ。日本に帰ってきたころのことだから、こっちは覚えている。飛行機から見下ろした雲、到着した空港、新しい家、そして、親父の友達。

俺がイチゴを差し出すと、宇佐美は、返事をせずに、目を閉じて、俺の手の中のいちごにかぶりついた。そして、もぐもぐやった後、すっごく良い笑顔でこちらを見上げた。
面白いから、何個も何個もとって、宇佐美の顔の前に差し出した。そのたびに、ニコニコしながら、俺の手からいちごを食べた。当時、宇佐美は、二歳半。だから、宇佐美の方は何も覚えていない。



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