くまさんとうさぎさんの秘密

男の事情

by 熊谷義明

「すごいね」中野先生が、ため息をついた。

机の上に、菓子切りと大福が置いてあって、隣にはメタルが大福と同じ形に固まっていた。

俺が、菓子切りを大福にあてると、メタルの大福も、全く同じように歪んだ。大福がまっぷたつになると、メタルもまっぷたつになった。

時田さんが、遅れて入ってきた。
「来た来た。やる気ない営業マン来た。」と、中野先生は言った。
「失礼な。先生こそ、俺が来てるってことが不良顧客ってことですから。」
時田さんは、暑いのに背広を着こんでネクタイを締めていた。
「義明君」と、時田さんは、言った。
「君に頼んどいたよね。説明したけど、この部屋自体非常に危険な状態だ。いつ事故が起きてもしょうがない状況だから。」
「科学の発展に犠牲はつきものですなあ。」と、中野先生は、笑った。「私はやりたいことやってるから、今日死んでもよく眠れそうよ。でかした、熊ちゃんって感じ。」彼女は、ご機嫌だった。

時田さんには、悪いとは思ったんだ。でもさ、
「すみません、時田さん。目の前に美味しい話が転がってるのに、手を出さずにはいれませんでした。。仕組みが分かったら、ひらめいちゃって。ストッパーとか言われても、そっちは、俺、何にも分からないです。」

「裏切り者。大人になるには責任だってついてまわるんだ。君らが好き勝手した責任だって、どこまで付き合えるか、俺は知らないぞ。」

「やる気ないんなら、帰れ、営業マン」と、中野先生は言った。

時田さんは、中野先生をにらみ返した。
「あのね、俺も別に何もせずにぼっとしてた訳じゃないです。結構頑張ったんです。悪くない話を持ってきましたよ。」
「何さ。時間に遅れるとか、営業マン失格じゃん。」
「中野さんと熊谷君で、今朝勝手に決めた時間じゃないですか。そんなの基本無理ですよ。」
時田さんは、汗を拭いた。
「この機械の後継機の開発をしてるんです。それは、開発途上で、正式に販売されてるモデルじゃないから、実験的に書き換えて大丈夫です。ただし、、今の機械より、高いです。ゼロひとつ違います。こちらと情報交換してもらう約束も必要です。」
中野先生は、不機嫌な顔をした。
「お金はないわよ。少なくとも、今年度私が応募した分からはびた一文出ないわ。」
「先生、言いたいことは本当は、たくさんあります。でも、シンプルに行きます。お金は出してもらえそうなので、今作ったものに関して、これから作るふりをして計画書を作成してください。」
中野先生は、ちょっとぽかんとしてたが、すぐに破顔した。
「時田ちゃん、大好き。」
中野先生は、時田さんに抱きついた。
あらら、時田さんは、真っ赤になった。
「そうだ、計画書、時田ちゃんが書いてよ。」
と、中野先生が言った。
「無理です!、!」と、時田さんは叫んだ。
「私は、今から耐久性検査の資料を元に、自分なりに安全装置を見直します。総点検します。だから、二人ともおとなしく書類を作成してください。」
時田さんは、ネクタイを緩めた。そして、上着を脱いで放り投げた。
面白くなってきた。

3次元内視鏡の良いのを作るのが、俺の夢だ。ほぼリアルタイムでメタルで再生可能な動画は撮れた。
あと、再生したものに触りながら刃を動かせるようにしたい。

だいたい、時田さんが横着してたのが悪いんだ。
時田さんとディスカッションしたところで、お互いに興味がないことには本当に興味がわかないと思った。
安全装置がそんなに気になるなら、そこは時田さんの専門で、俺に頼むことじゃない。








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