くまさんとうさぎさんの秘密
by 宇佐美 優那

くまさんが、迎えに来てくれていた。ちょっと照れくさいので、何もせずに黙って立っていると、
「行こう。」と、肩を抱かれた。ぽん、と背中を押され、早く歩くように促された。

「宮迫さんは?」
「さっき、お母さんが迎えに来たって。」
「さっさと帰らないと、ここら、柄悪いんだよ。裏手に風俗店の看板見かけた。。」と、くまさんは言った。

小走りに歩いていると、誰かもめてた。平林さんと、知らない男の人だった。平林さんも、相手の男も、二人とも興奮していて、普通じゃなかった。。多分彼氏さんなんだと思う。平林さんが、男の手を振り払おうとしていたので、くまさんは、平林さんを助けに入った。

くまさんは、誰に対してもこうなのだと思う。

ちょっと離れたところに取り残されて、動けずにいると、誰かに声をかけられた。

「さっき見てたよ。君らだけめちゃめちゃうまかったよね。普段はどこで活動してるの?」
とっさに、返事をしてしまった。
「ご近所で、公共の施設で演奏させてもらったりもしてます。」
「そっか。次のライブあったら教えてよ。良かったら、この後、ごはんおごるよ。俺達も、音楽やるんだ。学祭の助っ人に来たこともある。」

声をかけてきた人は、ポロシャツに変な帽子をかぶったおじさんだった。誤解させてしまったんだ。こんなところに突っ立ってた自分が悪い。

「あ、ちょっと人を待ってるんです。」

おじさんは、ちょっと若いおどおどした男と、かっちりとスーツを着たがたいのいい男と一緒だった。

「またまた、レベル低いのひっかけちゃったとか思ったでしょ。俺ら、意外と面白いし、親切だよ。」
おじさんは、私の肩をバンバン叩いた。

「宇佐美!、」と、くまさんの声がした。

3人の後ろにくまさんが立っていた。
多分、怒っている。焦っているだけにも見えるけど、怒っているようにも見える。
平林さんと、リュウジさんは、もう居なかった。

「あの、えっと、今、家族が、迎えに来たんで、帰りますね。」と、私は言った。3人組は、ちょっと酔っぱらっているような感じだった。特に、おじさんと、がたいいい男は、こちらの話は聞いていない。二人で道をふさいで、「俺達の面白さ」話で盛り上がり始めた。

私がおろおろしてると、くまさんが、がたいが良い男の足を払った。。
足を払われた男が、おじさんにぶつかったので、3人の和が崩れた。多分、3人とも何が起こったか分かってない。。
だから、私は、3人組の輪からもがいて逃れた。

その瞬間、また、足が宙に浮いた。多分、パンツ見えてる。。
私は、足をじたばたしたが、くまさんは私を小脇に抱えてすたすた歩きだした。。

発車しかけのバスにそのまま駆け込んで、座席に腰を落ち着ける。くまさんが言った。
「お前、来年も、これ続けるの??」
「くまさん、平林さんはともかく、さっきのおじさんたちには過剰防衛かも。。多分、酔ってただけだよ。」
「何が過剰だ。」
「晩ごはん誘われたけど、自分達で盛りあがってるだけで、何かされたとかないよ。」
「お前、断ったんだろうな。」
「断ったよ。聞こえてたかどうか分からないけど。」
「目を覚ましやがれってんだ。頭から水かけられたっておかしくない状況だろ。」
「くまさん、平林さんは大丈夫だった?」
「ひとまず今日は大丈夫だと思うけど、。お前もみやこもやめた方がいいんじゃないの??向いてないよ。」

「軽音自体やめたくない。保育園のライブとか、楽しかったんだよ。今日が、何かまずかったのは分かってる。。松野さんとか、他のジャズチームのメンバーは、キヨシさんの車でさっさと逃げちゃったんだ。」
「その、、松野さんて人も酷いんじゃないか?。普通、一緒に乗せてくれるだろ?」
「松野さん、めちゃめちゃチケット売ってるし、今日は付き合いがあるみたいなんだ。車の定員も限られてるし。「とにかく、さっさといなくなるように」って指示だった。」
「何だそれ。俺も、車で来なきゃならなかったわけ??免許とれば良い?」
ここまで、くまさんは、焦ってはいたみたいだけど、特に怒ってるようでもないと判断して、、
「良いかも。くまさん、免許とって、車買ってよ。」
私は、くまさんの顔を見て笑った。もちろん、冗談だ。ちょっと笑ってほしかった。

くまさんの眉間にシワがよった。。しまった。
「言っとくけど、俺は、軽音の活動継続には反対だからな。」
「ごめん、冗談だよ。。今日はどんくさかったのは認めるけど、ライブ自体何も悪いことしてない。女の子に悪い事する奴がいなくなれば、もっともっと、女の子に表現の場所とチャンスが広がるんじゃん。」
いわゆる、「白い目」というやつだ。。くまさんの目がすわっている。ちょっと、、かなり怒っているのかも。
「お前さ、、お前が表現したいもんて、何な訳?その、、何だよあの歌は??やらせてくれよ、お願いだよ、もう我慢できないない、突っ込まそうぜ、、」くまさんは、まっすぐ私の顔を見ながら言った。
顔が熱くなった。。
バスの乗客が何人か振り返った。。
「ごめんなさい、。」恥ずかしくて、目が泳いだ。何だろ、何か、、また、泣けてきた。
くまさんに、その気はない。でも、、あんな一生懸命顔見てあんなこと言われたら、、恥ずかしさからか何なのか、緊張しすぎて息が苦しくなった。
くまさんの手は、腰に回ったままだ。いたたまれなくなって、顔があげられなくなってしまった。彼に体を寄せて、。「ごめんなさい」と、私はもう一度言った。
くまさんの手に、力が入ったような気がした。

「とにかく、、お前、こういう男がいた方がいいの?いない方がいいの??」
「それは、、好きな人には、そんな風に思ってほしいけど、そうじゃなければ思ってほしくないみたいな。。」声が小さくなる。。
「誰にでもそういう歌聞かせるのおかしくないか??男の方は、どう解釈すれば良いわけ??」
返す言葉もございません。。
でもさ、くまさん、それは1つの考え方です。何か、松野さんにも、くまさんにも、ちょっと騙されてる気がして、何が何だか分からなくなった。

体が疼いた。何か、どうしようもなく、女の子だった。

だめだ。緊張のあまり、眠くなってきた。

























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