くまさんとうさぎさんの秘密

因幡の白兎

by 熊谷 ひとみ

オオクニヌシは、88人のお兄さん達にいつもいじめられていた。お兄さん達が、因幡のヤカミヒメに結婚を申し込むというので、因幡の国までお兄さん達の荷物を担がされてとぼとぼと歩いていった。

お兄さん達は、浜辺で傷だらけのウサギを見つけて、からかいがてらウサギの傷口がますます痛むようなことをそそのかす。ウサギが苦しんでいると、そこに、オオクニヌシがやってきて、ウサギの傷を治してしまう。

オオクニヌシは、医療再生、農業豊穣を司る神様で、けして誰とも戦わない。やられっぱなしになっては、いろんな女神に助けられる。そして、ひたすら逃げる。

ウサギは、ヤカミヒメがオオクニヌシを選ぶと予言し、ヤカミヒメはお兄さん達の前でオオクニヌシを選ぶと宣言してしまう。これがお兄さん達の怒りや嫉妬の火に油を注ぎ、オオクニヌシは何度も半殺しの目にあうことになる。。

「だからね。ひとみ、女の子から、男を選ぶようなことを言っちゃいけない。」と、大ばあ様は、言った。
「相手の男の災いの種になるから」と、大ばあ様は、言った。

そして、半殺しの目にあったオオクニヌシは、母親の勧めで黄泉の国へ逃げる。ところがここでも、力試しのようにスサノオノミコトに無理難題を言いつけられる。
黄泉の国では、スサノオノミコトの娘のスセリヒメが、スサノオノミコトに隠れて、毎度助けの手をさしのべてくれ、二人は恋に落ちる。
古い絵本等では、この二人は、出会った時から、恋に落ちて見つめあったと書かれているものもある。

スサノオノミコトが差し向ける、蛇や蠍や蜂やムカデ、その他の難題から次々に彼を救い出すスセリヒメは、蛇や蠍や蜂をコントロールする力を持っている。

とうとう、スサノオノミコトから逃げ出すことを心に決めたオオクニヌシは、スセリヒメにプロポーズする。つまり、「一緒に逃げませんか」と、申し込むのだ。
二人は、手にてをとって国に帰り、オオクニヌシが国を治めるまでになる。

カナダの西海岸では、札幌農学校出身の日本の有名な外交官が客死している。農業技術、それこそ、害虫や益虫をコントロールする力の輸入というのは、当時の日本にとってとても大切な課題だった。
オオクニヌシというのは、当時の外交官にとって、目指すべき1つのありかただと言える。けして攻撃しない。生きて帰る。嫌われたりもするが、助けてくれる人もいて、自分を助けてくれる人の手をとる。

「賢い女になりなさい。生産能力の高い男に愛されるから。」と、大ばあ様は言った。

そういうわけで、日本にお嫁に来て、びっくりした。おばあ様が話してくれたオオクニヌシは、日本にはいなかった。何でも、日本人学校では、終戦後に保証された信仰の自由が、日本にはなく、オオクニヌシのお話は、1度は教科書から消されたのだそうだ。
オオクニヌシは、全く好戦的ではないから、何が検閲に引っかかった原因か気になって調べたところ、「ヤカミヒメのように、オオクニヌシのような人を選びなさい」と教えた女学校の話を伝え聞いた。天皇の先祖だというのが良くないらしい。
桃太郎や一寸法師の方がよほど好戦的だと思う。義明にも読んでやらなかった。
オオクニヌシにもいろんな解釈があるが、大ばあ様のオオクニヌシは、誰も知らないお話なのだと思うと、寂しくなった。娘がいたら、話したいと思っていた。


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