転生令嬢の異世界ほっこり温泉物語
「どうした?」

ライが気にして聞いて来る。

「いえ、なんでもない……」

本当の事を言えるはずもなく誤魔化すと、ライは不服そうにしながらも、それ以上の追加はして来なかった。

「疲れたら直ぐに言えよ?」

「ありがとう。でも、今のところは大丈夫」

ライに答えると、私は水脈探しの続きをはじめた。


今いるのはミント村の東に一時間程進んだところ。

小さな領内でも端っこの方だ。


温泉宿の運営をスタッフに任せられるようになったので、私とライは領内の水脈の調査を進めていた。

把握しておけば、何あった時に新しい水場を直ぐに作る事が出来るし、リゾート拡大の為の第二の温泉地の候補も検討出来るから。

日々温泉に入り、【健康増進】効果で体調が良いことと、仕事の合間に行なっていた訓練のおかげで、私の水脈探しの実力は上がっていた。

自分の力が無理なく及ぶ範囲は把握したし、倒れる前にやめる引き際も覚えた。

それでも、ライは私が一人で出かけるのを良しとせずに相変わらず一緒に居てくれる。

「あっ、向こうに井戸を作れそうなポイントがあるわ」

私の指差す方を確認して、ライが地図に書き込んでいく。

「この辺りは低地だから、ミント村まで水路を引くのは難しいな」

ライは独り言を言いながら、辺りを確認している。

背筋をまっすぐ伸ばして、遠くを見据える姿は、堂々としていて、その人並み外れて整った容姿と相まって目を奪われる。

まるで一枚の絵のように綺麗。

もうすっかり馴染んで見慣れているはずのライに、私は今でも時々見惚れてしまう時がある。

じっと見つめていると、視線を感じたのかライが振り返り、不思議そうに私を見た。

「エリカ、どうかしたのか?」

ライは手にしていた地図を畳み、私の方に歩み寄って来ようとした。

そのとき、普段この辺りで聞くことのない、多数の蹄の音が地面を伝って響き渡った。
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