君のぬくもりを忘れたい

すれ違い

文化祭の一週間前。
私たち1–2は、メイドカフェの衣装のサイズ合わせをすることになった。

そして、ちゃっかりメイド服を着させられている私。

(恥ずかしい…っ)

着替え終わった人から、クラスに戻るというルールに従ったものの恥ずかしさには勝てず自分の席に急いで行った。

教室にいる人たちの目線が気になる。

似合ってないのはわかるけど、そんなに見ないでほしい。

あぁ…もう嫌だ。なんでこんなことに–––


ザワッッッッ


ドアが開くと同時に教室がさっきより騒がしくなる。

「?」
ドアの方に、目線をよせるとそこには、河野君が立っていた。

「これ、案外はずかしい」
手袋をはめながら執事服の河野君が登場したから、騒がしくなったのか。


「やば、目の保養だわ」
「イケメンっっ♡」

女子たちのコソコソした声が聞こえる。

そうしているうちに、河野君が自分の席へ向かっている。つまり、私の隣に…

即座に、顔を晒す。
こんな格好やだ。河野君にだって見られたくない…

「お、壷林さん着替え終わっ…」

途中で切れる声に、驚いて河野君の方を向いてしまった。

私が向いた瞬間に河野君は私に背を向けた。

なんだこれ。

今度は、さっきと私達の行動が真逆だ。

「あ、変なのに 見させてごめん。」

不快なものを見せてしまった。


『壷林さん、似合うと思うけど』
あの時の言葉を思い出して少し胸が痛んだ。

見れないくらい変。似合ってない。
そんなのわかってたのに、
河野君になにを求めてた?期待してた?


まぁいいや。
これで距離をおくチャンスが––––––––


「ちがう…俺、

–すぎて、直視できないかも」


耳まで赤くした河野君から出た言葉は

誰にも聞こえないくらい小さくて

でも、私の心臓は大きくなって 。

顔が赤くなるのがわかって 。


「私っ 、着替えてくる」


とっさに、逃げた。
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