羊と虎

「・・・るか?」

恥ずかしくて窓の外を眺めていた杏奈の耳に、凱の声がぼんやりと入ってきた。

「え?よく聞こえなかったんですが・・・」

「今までの勉強会の礼がしたいから、土曜日空いているかと聞いたんだ」

声のする方に顔を向けると、前を向いて運転する凱の横顔が見えた。

対向車のライトが時折横顔を照らすが、その表情は読み取れない。

『土曜日かぁ。当分土日は大会の為に地元に戻るから無理なんだよね』

6月にある、空手の大会に出場する為に、実家の道場に練習に行く事を思い出す。

本当は、金曜の夜から向って、二泊三日で練習をする予定だったが、凱との勉強会のため、土曜日からにした。

「ちょっと、当分週末実家に戻らないとダメなんで、6月の終わり頃なら大丈夫です」

こっちに居ると、手合わせが中々出来ないので出来るだけ多くの休みを道場で過ごしたい。

「そうか・・。分かった。都合が良くなったら教えてくれ」

そう言った凱の表情は読み取れない。
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