羊と虎

「どうしてなくなったんだ?」

無事復旧が終わって凱にスマホを返したら、スマホをマジマジ見ながら呟いた。

「この機種はアプリを長押しすると、左上に×マークが出るんです、それをタップすると、削除するかどうかの確認画面が出ます」

「・・・そう言えば、削除メッセージを見たような・・・ぼんやりとしたまま触ったせいか」

杏奈が画面で実演したのを見ていて、思い出したように呟いた。

「大丈夫ですか?」

凱にしては珍しい気がして、つい口にしてしまったが、自分のような年下の平社員に言われても嬉しくないだろうと思いしょぼんとしてしまった。

「大丈夫だ。・・心配してくれて、ありがとう」

僅かに口角があがり、笑っているのがわかり、杏奈の胸が温かくなった。

「また、今度休みの日一緒にご飯に行かないか?」

「え、でも食事なら喜んで行ってくれる女性(ひと)が居るんじゃ・・・!あっ、スイーツ!
そっか、そうですよね!分かりました!凱のご都合のいい日で大丈夫です!」

こんなにいい男なのだから、自分に頼まなくても引く手あまたの筈なのにと、思っていたが、スイーツ好きを思い出し、納得した。
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