不良に恋した私 ~Is there love in the air?~
9、ずっとそばに居させて ~Is there love in the air?~
それから数ヶ月たった、
七月のある日。

その日は、先輩達がまだ来ていなかったので、 一人、体育館でバスケの練習をしていた。

体育の授業ぐらいしか経験のない私は、ドリブルシュートが決まらない。

中学まではなんとなく文化系に入っていた。
高校では、サッカー部に入れなくて、それなら、丸山くんのそばに居ようと、同じ部に入ってみたけど、バスケも嫌いじゃなかった。

でも、やってみて思った。
私には才能がないのかもしれない。
ものすごく下手だ。

1、2……3。

うまくシュートが決まらず、投げたボールが足元に転がる。


「へったくそ」
そう言って入ってきたのは、丸山くんの友達でロン毛の方だった。
同じ部活だったが、話したことは一度もなかった。

いつも女の子と一緒にいることが多く、ちょっとチャラチャラしたイメージがして、私の一番苦手なタイプだった。

「できるんですか?」
答えるよりも先に私から奪うようにボールを取り上げると、軽々とドリブルシュートを決めた。

「すごーい!カッコイイ!!」
思わず私の口から感動の言葉がもれた。

ロン毛は、カッコイイと言われたことに気をよくしたのか、
「教えてやろうか?」
っと頼んでもないのに言ってきた。

「俺、拓。拓先輩って呼ぶなら教えてやるぜ、美弥ちゃん」
「なんで、私の名前……?」
まあ、同じ部活だから知ってることもあるかもしれないけど、下の名前まで知っているなんて、女の子なら誰の名前でも言えるくらいチャラいのだろうか。

「お前、全然わかってねぇなぁ。めちゃくちゃ目立ってるぜ」
私は自分が目立っていることなんて知らなかった。
だから、ロン毛の言葉に驚いて聞き返した。
「どういうことですか?」


ロン毛は急に真剣な顔つきになると、スリーポイントラインからシュートした。
それもまた、スっと見事に決まる。

「黒髪で真面目っぽいのに、理人の周りうろちょろしてる変な女がいるって、二年の間では噂になってたぜ?」
ロン毛が投げてきたボールを私はキャッチした。

「私、そんなに、うろちょろしてるように見えますか?」
「まあ、理人は人気あるけど、人を寄せ付けない所あるから、一緒に居るだけでも十分、目立つぜ」

私はその場で二・三回ドリブルすると、
そのままドリブルシュートに挑戦したが、また失敗した。
「ダメだ……背が低いから無理なのかなぁ?」
独り言のようにいいながら、落ち込む私にロン毛は言った。

「背は関係ないよ。最後、止まらずにゴール下まで走り抜ける。……ボールは投げ入れるんじゃなくて、手から自然と離れるイメージで、ゴールに優しく置いてきてみな」
「投げたら駄目なんですか?」
私はロン毛に言われた通り、チャレンジしてみる。

1、2……3。

まぐれなのかどうかわからないが、きれいにシュートが決まった。
「拓先輩すごい!!教え方うまいんですね」
「俺もビックリした。……やるなぁ~美弥ちゃん」
拓先輩は成功したのが、余程嬉しかったのか、飼い犬を撫でるように、私の頭をくしゃくしゃっとした。

「ま、まぐれだよ」
気がつくと敬語が抜けていた。
でも拓先輩はそんなこと全然、気にしていないようだった。

「さすが、理人のお気に入りなだけあるな」
「……お気に入り?……」
私は持っていたボールを拓先輩に投げた。

「理人が自分から話しかける女は、なつみと美弥ちゃんくらいだ」
「なつみ先輩?」
なつみ先輩ってやっぱり丸山くんと仲がいいんだ。
私があからさまに落ち込んでいると、拓先輩が付け足すように言った。
「ああ、俺ら三人は幼なじみだから。なつみは、理人の彼女じゃねーよ」
なつみ先輩が、丸山くんの彼女じゃないと知り、私はホッとして、拓先輩からボールを奪い取ると、ドリブルシュートの練習を始めた。

「わかりやすいな……美弥ちゃん」
拓先輩が何か呟いていたけど、私にはよく聞こえなかった。

「練習付き合うぜ」
二人でシュート練習やらドリブルの奪い合いなどの練習していたら、そこに丸山くんがやってきた。

「拓、金井?!二人で何してる?」
「何って、練習だよ」
拓先輩があっけらかんと答えた。
丸山くんは私と拓先輩の間をさくように、私の前に立った。

「金井、拓には……コイツには関わるな」
丸山くんは少し苛立っているようだった。
明らかに丸山くんの拓先輩に対する態度がおかしかった。
二人はいつもは仲がいいのに。

「拓も、金井に気まぐれで優しくするな」
拓先輩は納得いかない顔で反論した。
「なんだよそれ、俺が美弥ちゃんに優しくして何が悪い?」
「金井は……拓の周りにいる軽い女とは違うんだ、手を出すな」
拓先輩は丸山くんに今にも掴みかかりそうだ。
「はあ?俺は何もしてない。どちらかというと……理人、おまえが美弥ちゃんに手を出してんだろ?お前が言わねぇから、知らない振りしてやったけど……俺は見てたぜ、始業式の日、二人で部室入っていくの」
どうして二人が言い合いしているのか、私にはわからなかった。

「好きなんだろ?俺に美弥ちゃんをとられたくなくて、近づいて欲しくないだけだろ?彼女を守りたいなら、素直にそう言えよ!」
「俺は別に何とも思ってない……金井がおまえのことを選ぶなら、俺には止める権利はないし、好きにすればいい……」

丸山くんの、その言葉は、私の心にグサリと刺さって痛かった。

二人で一緒に過ごした時間は、かけがえのないものだと思っていた。楽しかった分、その言葉が余計に、私は悲しかった。

そして、私の丸山くんへの気持ちが、そんな簡単に変わってしまうものだと、思われていたことも……。


「拓先輩、練習付き合ってくれてありがとうございました。……私、今日は帰ります」
「美弥ちゃんっ!………」

私は二人におじぎすると、泣き出しそうなのを見られたくなくて、正門まで走った。

私は走りながら、もしかしたら、丸山くんが、追いかけて来てくれたらいいなっと、ちょっとだけ期待していた。

でも追いかけてくる気配はなかった……。



次の日、
部室に行きづらく、でも帰ることも出来ず、誰も居ない体育館の裏でうずくまっていた。

そこに私を探していたのか、拓先輩がやってきた。

「美弥ちゃん、ここに居たんだ?……大丈夫?」
「すみません。見張り出来なくて……」
拓先輩は首を横に振ると、私の隣に腰掛けた。

「そんなことどうでもいいよ。それより、昨日……理人にあんなこと言わせるつもりじゃなかった。……ごめん」
「なんで!?拓先輩が謝るんですか?」
私は、拓先輩が謝る必要はないと思った。

「あれ、アイツの本心じゃないよ。理人はたぶん自分に自信がないんだと思う。俺からはうまく言えねぇけど、理人ともう一度、ちゃんと話してみてくれないか?」

本心じゃないなら、なんであんなことを言ったのだろうか。
私が居なくなるのが怖くて、自分の方から突き放したのだろうか。

私はハッとした。

まだ自分の気持ちを、きちんと丸山くんに伝えていなかったことに気がついた。

たとえ無駄な結果に終わっても、丸山くんに素直に伝えようと思った。


次の日の昼放課。
丸山くんが部室へ向かうのを追いかけた。

鍵がかかっているかと思ったが、部室のドアはすんなりと開いた。

私は部室に入ると、そっと鍵をかけた。
「誰だ?……金井か」
丸山くんは部屋の隅の方でタバコを吸うわけでもなく、座り込んでいた。

「丸山くん……」
うつむいたままで、丸山くんがどんな表情をしているのかわからなかった。
私はゆっくりと丸山くんの方へ近づいて行った。
窓から入る太陽の光で、丸山くんの髪が綺麗に光る。

「綺麗」
私は丸山くんの前に立てひざをつくと、丸山くんの前髪をかきあげるように触れた。
「やめろ」
丸山くんは私の手を掴んだ。
掴まれた手が少し痛かった。

でもここで引き下がりたくなかった。
私は丸山くんの顔に顔を近づけると、目を閉じ、そのままその唇に唇を重ねた。

「好きだよ……。私、丸山くんのことが好き。それを伝えたかった」
私は丸山くんの体をぎゅっと抱きしめた。

「俺は……」
丸山くんの腕が動き、私を抱きしめ返してくれるかと思ったが、その手は途中で止まってしまった。
自惚れてるって思われてもいい。
今はまだ、丸山くんはハッキリ言えるほど、私のことを好きじゃないかもしれない。でも、私のこと嫌いなはずは……ない。

「いいよ、今は無理して言わなくても……いつか聞かせて」
私は丸山くんに、もう一度キスをした。
「嫌いって言われるまで、私はずっとあなたのそばに居るから」

「なんだよそれ……」
丸山くんがそう言って笑った。
「誓いの言葉」
「やっぱ変な女……」

丸山くんは、ふっと優しく微笑むと、彼の方から、そっと私にキスをした。
それは言葉に出来ない丸山くんからの『Yes』と言う気持ちのようだった。

私に触れる丸山くんの手が、最初にキスしたあの時みたいに、かすかに震えていた。

「丸山くん?」

丸山くんは、何かに怯えているようだった。

『お前は俺から離れていかないよな?』前に寝た振りをしていた時、丸山くんが呟いていた言葉を、私は思い出していた。

丸山くんが、何にこんなに怯えているのか、私にはまだわからなかったけど、それがどんなことでも、丸山くんを好きだというこの気持ちは変わらないと思った。

「私は……居なくなったりしないから、大丈夫だよ」
私は震える丸山くんを、ぎゅっと自分の胸に抱き寄せた……。
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