まずはお友達から〜目が覚めたらタイプの人に付き合って欲しいといわれました
退勤後、心臓をバクバクとさせながら待ち合わせ場所で彼を待つ。
決戦の日に合わせて髪も服も気合いを入れてきた。…あと、一応下着も。

もう少しで着くというメッセージが届いて更にそわそわする。そして。

「ごめん、待たせて」

彼が現れた。

「ううん、大丈夫」

「…ちょっと一回帰ってもいい?」

「え!?何で!?」

思わず涙目になりながら彼の服の袖を掴むと、ほんのりと彼の頬が赤く染まっている事に気付く。

「雪ちゃんがそんなに可愛い格好してくると思ってなくて…めっちゃ普通の服着てきちゃった」

釣られて私の頬も赤く染まる。

「あ、ありがとう…でもそれってちょっといじってない…?」

「…普通に褒めてるつもりですが。
ねえ…本当に着替えてきてもいい?やり直したい!」

「嫌よ、お腹空いたし。
今のままで十分素敵よ」

自分で言って恥ずかしくなってくる。彼の揶揄う様な視線を感じて慌てて出発した。

「お店もさ…めっちゃ普通の居酒屋にしちゃったよ」

「い、いいの!さ、入りましょう」

連れて来られた居酒屋は確かにオシャレな所ではないけれど、美味しそうな雰囲気が面構えで分かった。
ワクワクしながらメニューを見ると、創作おつまみが豊富で更に楽しい気持ちになる。

「確かにここは美味しいけどさ…何かこう、もっと」

「まだ言ってるの?」

「だって、こんなデートみたいになるとは思わなくて」

また一気に顔が熱くなる。

「もう…揶揄わないでよ」

「揶揄う?どうして?」

という事は本気で悔やんでいるという事か。
余計に恥ずかしくなるので私は適当に返事をして、メニュー選びに集中した。

期待通りどれも美味しくて、今度ゆりなとも行こうと決める。
彼はようやく諦めたのか、途中からはおすすめのおつまみを教えてくれたり、他愛のない話をし始めたり、いつもの様な和やかな雰囲気に戻る。

「結構お酒強いね。
という事はあの日はかなり呑んだの?」

「まあ…色々あって」

「仕事?それとも恋愛?」

「仕事」

その時ハッとした。これはそれとなくその流れに持っていけそうな予感がする。

「恋愛は…ないよ。大学生の時が最後でずっと彼氏いないし」

「…ふーん」

え、“ふーん”?
”ふーん”で終わったこの会話!?

実際、その後彼は何ともない様にお酒をごくりと飲み干し、店員さんを呼ぶ。

一方私は背中に汗をかく程焦っていた。
もしかして元彼匂わせたのがまずかった?それとも単純にもう興味がなくなった?
でもさっきあんなにデートだなんだ言ってたじゃない。今日お泊まりのお誘いもしてきたじゃない。

ああ、やっぱり恋愛というものは分からない。私には合わないのかもしれない。
すっかり自信をなくした私は若干拗ねながらちびちびお酒を呑んでいると、彼の視線を感じた。

「…何?」

「え?あ、いや…」

視線を彷徨わせる彼。私はその時気付いてしまった。
彼もまた、私との距離を測りかねているという事に。
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