銀狼と緋色のかなた
翌日、今夜のブラッディムーンには何事も起こらないのでは、と思えるような平凡な日中を過ごした四人は、少し早めの夕食をとることにした。

西の空に夕焼けが広がる。

かなたは、はるかとヒロト、空月に意を決したようにあることを告げた。

「はるか、ヒロト、空月。3人に伝えたいことがあるの」

「どうした?何か困ったことでも起きたのか?」

心配そうな顔で、ヒロトがかなたに聞いた。

「違うの。実は,,,」

かなたは、懐からひょうたん型の水筒を取り出すと、テーブルの上の4つの杯にその中身を注いだ。

茶色がかったその液体は、メープルシロップのような甘い匂いがした。

「これは,,,?」

ヒロトが尋ねると

「,,,この村の御神木の樹液よ」

はるかが驚いたように体をブルブルと震わせた。

はるかのこの反応は当然だ。はるかもかなたも、両親から

"決してご神木を穢してはいけない"

と言われて育ったのだから,,,。

「ふふ、大丈夫だよ、はるか。おととい、お父さんたちの書斎で古い書籍を見つけたの。そこに人狼を人間に戻す方法が書いてあったの」

かなたはその液体にぬるめのお湯を注いだ。

「ブラッディムーンが空に現れたその時、みんなでこれを飲み干すの。そうすれば人形を保つことができるはず」

狼のはるかと空月が黙ってかなたを見つめる。

「それだけで本当に人間として生きられるようになるの?」

ヒロトが言った。

かなたは微笑みを崩さずに

「,,,私を信じてほしいとしか言えない,,,。」

書籍に書かれていることが本当かどうかは、やったことがある人がいないので何とも言えないのだ。

「ほら、もう時間がないから行こう。泉の傍ならブラッディムーンの光が良く届くはずだから」

お盆にのせた4つの杯を持って歩き出すかなたの背中を、空月とはるか、ヒロトが追いかけていった。



いつのまにか紫色に染まった空が、暗闇を連れてこようとしている。

まるで、かなたと空月、はるかとヒロトが出会った、あの日の美しい夜のように,,,。
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