銀狼と緋色のかなた
夜になり、はるかは空月を誘って村の泉に向かった。

明日のブラッディームーンを待ちわびるかのように、空には金色の月が輝き、満天の星が二人を包んでいた。

「空月」

地面に臥せをする態勢で座る空月の首に、かなたは抱きついた。

「私、みんなが人形を保つ方法を見つけたんだよ」

空月は耳をピンとそばだて、かなたを見つめた。

「明日になったら全部話すけど、みんな、ずっと人形でいられるんだよ」

かなたは空月の首に腕を巻き付けたまま話しているので、空月からはかなたの表情を見ることはできない。

「ふふ、明日はまたイケメンの空月に会えるんだね。楽しみだな。ヒロトもかっこいいけど、人形の空月を見たら、はるかも空月に惚れちゃうかもね」

かなたは楽しそうに話しているが、声のトーンがいつもと違う。空月は体を動かして、かなたの顔が見えるように移動した。

かなたの美しい緋色の眼が、少し悲しげに潤んでいる。

かなたの話が本当なら、その話は喜ばしいことのはずなのに、何故かなたはこんなに悲しそうな顔をしているのか,,,?

空月は、かなたの目尻をそっと舐めた。

かなたは驚いたように目を見開いた後、真っ赤な顔で空月の顔を押し退ける。

「やだ、狼の空月もものすごく格好いいんだからからかわないで」

かなたはまるで人間の空月にキスでもされたかのような照れ具合だ。

狼の空月は、かなたを抱き寄せることも会話をすることもできないが、寄り添うことで自分の思いを伝えてきたつもりだ。

「私、空月に会えて本当に良かった。本音はもっと早くに会えたらよかったけど,,,。」

かなたは、空月の顔を両手で包み込みながら目を見て言った。

「空月、空月が大好きだよ。あの時私を守ってくれてありがとう。狼の空月も人間の空月も私にとっては一番の存在。あなたが生きていてくれて本当によかった」

かなたが空月に紡いでいるのは愛の言葉だ。

人語を話せない狼の姿の空月は、思いを返せないのが歯がゆくて仕方なかった。

"明日はたくさん話をしよう"

空月は、今度は、自分を見つめるかなたの唇を舐めてみせた。

今度こそ、茹でダコのように真っ赤になるかなた。

「もう!空月は本当は"意地悪なツンデレ"だったんだね」

かなたは再び空月の首に自分の腕を巻き付けると

「銀狼の姿は今日で見納め。,,,今夜は、狼の姿の空月とずっと一緒に居させてね,,,」

消え入るような声でかなたが囁く声が森の中に響いたような気がした,,,。



その晩、床に寝そべる空月の横には、ブランケットにくるまって横たわるかなたが寄り添うようにして眠っていた。
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