銀狼と緋色のかなた
10時になり、空月とかなたは神殿に向かった。

はるかとヒロトはすでに神殿の中にいて、本棚に並べられていた書籍に目を通していた。

「おはよう、よく眠れた?」

「う、うん」

真っ赤になるかなたの様子に何かを察したはるかとヒロトだったが、傍らに立つ空月の意地悪な笑顔に恐れをなしてそれ以上聞くのをやめた。

「昨日渡した書籍は読んだ?」

「うん、読んだよ」

朝起きて、さんざん空月とイチャついた後、かなたは空月と二人で、昨日、はるかから渡された書籍に目を通していた。

そこに書かれていたのは、叔父がまとめた"人狼に関する情報"と"緋色眼の人狼の歴史"であった。

人狼には、緋色眼、碧眼、銀狼の種族の他にも数種の部族が存在していたが、今はその殆どが絶滅していて、現在、確認できているのは、前述した三種の人狼だけであるということ。

もともと、結界を引いて外界との接触を極力避けてきた緋色眼の人狼においては、血族結婚が主体であり、村の人口は激減していった。

このままでは種の存続自体が危ぶまれると考えた当時の種族長は、"三種の神器"を揃えて、種の存続をはかろうと考えた。

"三種の神器"は、種の繁栄を約束してくれるとされている。

しかし、三種の神器のひとつである"緋色の鏡"だけは、村に作れるものがいなかった。

そのため、種族長は、碧眼の人狼に依頼して緋鏡のもととなる鏡を手に入れることはできたが、村に伝わる伝説(かなた達四人が実践したこと)を実行する者が現れず、三種の神器は完成することなく、時間だけが過ぎていった。

そこで種族長は、当時の巫女に祈祷を依頼して、自分の命と引き換えとして、ご神木に一つの願いを託した。

緋色眼の人狼の末裔が、最後の一人になったときに、2つの神器(緋刀と勾玉)に導かれ運命を乗り越え、再びこの村に帰ってくることができるように祈ったのだ。

この村に残った最後の夫婦は双子同士の二組であった。

二組の夫婦に生まれた子供はどちらも娘であったため、血族結婚もできず、種の存続は外部者との縁に託さることになった。

村に伝えられてきた言い伝えによると、最後に村を去る者に、緋色の勾玉と秘刀を持たせることになっていたが、双子の夫婦は、はるかとかなたのどちらが生き残るかわからないと考え、それぞれの娘に、それぞれが引き継いできた神器を持たせることにした。

そして、はるかが碧眼の人狼であるヒロトと出会い、かなたが銀狼である空月と出会って、伝説の実行と、三種の神器の完成を成し遂げたのである。

「ヒロトと話して、この村を碧眼の人狼にも拠り所としてもらえるような拠点にしたいと考えているの」

「碧眼の人狼はまだ十数人残っている。若い世代もいるから、拠り所があると心強いと思うんだ」

はるかに続いてヒロトも思いを口にした。

「そうだな。銀狼もまだ十数人は存在しているはずだ。親父やお袋にも相談してみるよ」

空月も二人の意見に同意を示した。

拠り所があれば、出会いも増え、20歳のブラッディムーンを迎える前に、運命の相手に出会えて、人形を保ったまま生涯を終える人狼も増えるに違いない。

神殿には、種の繁栄を約束する"三種の神器"も納められているのだ。

それにこの村は、結界がはられ、御神木によってその存在が人間から守られている。

情報さえ管理すれば、人狼の安全も確保されるはずだ。

「この村以外にも、それぞれの村に伝わる言い伝えを集めていけば、もっと建設的な未来を手にすることができるかもしれない。僕はそれをはるかと一緒に探してみたいんだ」

夢を語るヒロトの瞳はいきいきとしており、その手を握るはるかの目にも情熱が宿っているのが見てとれた。

「じゃあ、この神殿の管理は二人に任せるよ。私たちはご神木と周囲の管理を担当するわね」

かなたの言葉に頷いたはるかを確認してから、かなたと空月は神殿を後にした。





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