社内恋愛狂想曲
その場をしのげればなんとかなると容易く考えていたけれど、リアリティーを持たせるにはそれなりの努力は必要らしい。

「お二人は婚約者のふりをする以前に、少し恋人らしく振る舞う練習をした方が良さそうですね。さぁ、恥ずかしがってないで、お互いに呼んでみてください」

「……おまえ、面白がってるだろう?」

「めちゃくちゃ面白いですよ。でもこれも潤さんのためでしょ?じゃあ志織さんから呼んであげてくださいよ」

「ほぇっ……?!」

いきなり私の方に話の矛先が向かったので、びっくりして変な声が出てしまった。

瀧内くんは整ったきれいな顔を私の顔に近付けて、容赦なく詰め寄ってくる。

ジリジリと後ずさるうちに壁際まで追い詰められて、いわゆる壁ドンのような体勢に持ち込まれた。

顔の両側には瀧内くんの手があって、少しでも動くと鼻とか唇が触れてしまいそうで、 身動きが取れない。

「玲司!おまえまたそんなことして……!」

瀧内くんの肩越しに、三島課長がうろたえている姿が見えた。

まるで粗相をしでかす息子を必死で止めようとする父親のようだ。

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