社内恋愛狂想曲
本当はずっと終わりが来なければいいと思うけれど、偽婚約者の話はもうおしまいにしようといつ言われてもいいように、心積りだけはしておこう。

私のそんな心配をよそに、迎えに来た三島課長は至っていつも通りだった。

車に乗ってシートベルトをしめようとすると、うっかり強く引きすぎてロックが掛かってしまう。

「あれ?」

「どうした?」

「シートベルトが……」

しめ直そうと焦ってまた同じことをくりかえしモタモタしていると、三島課長は助手席の方に身を乗り出してシートベルトをしめてくれた。

私の顔のすぐ目の前に三島課長の横顔があって、私は鼓動が速くなっているのを気付かれないように、息を殺して三島課長が離れるのを待つ。

「よし、これで大丈夫」

「……すみません」

「……ん?ちょっと待って」

やっと息ができると思ったのに、三島課長は私の顔をすぐ間近でじっと見ている。

目が合った瞬間、デートの帰り際にキスしそうになったことをまた思い出してしまい、慌てて目をそらした。

「な……なんですか?」

私がうろたえながら上ずる声で尋ねると、三島課長は私の頬に右手を伸ばした。

「志織、ちょっと目を閉じて」

「えぇっ……なんで……」
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