社内恋愛狂想曲
嘲笑まじりに呟くと、瀧内くんはほんの少し眉間にシワを寄せてカップを口元に運ぶ手を止めた。

「仮に僕にとってはそうでも、佐野主任にとってはくだらなくはないでしょう。ここまで関わっておいてあとはノータッチというのもアレなんで、できる限りの協力はしますよ」

「……ありがとう」

いつもはクールな瀧内くんにしては珍しく、あまり見たことのないやわらかな笑顔を見せた。

自虐的なことを言って元部下に心配されるなんて、自分の不甲斐なさが恥ずかしくなる。

家で一人のときには情けなく泣き崩れたとしても、同僚の前ではもっとシャンとしていないと。

「じゃあ……もう一度信じて裏切られたときは、今度こそ痛い目を見せてやらないといけませんね」

瀧内くんが少しいたずらっぽく笑ってそう言ったので、私もつられて笑ってしまった。

「そうだね。そのときは覚悟決めて徹底的にやることにする」

浮気されても別れたくないなんてバカな女だと呆れて突き放されてもおかしくないはずなのに、自分にとって得なことなどなくてもこんなに親身になってくれるということは、少なくとも私は瀧内くんに嫌われてはいないのだろう。

そう思うと、瀧内くんの厚意が素直に嬉しかった。

< 55 / 1,001 >

この作品をシェア

pagetop