社内恋愛狂想曲
伊藤くんと瀧内くんが用意してくれたビールで乾杯してひと息つくと、葉月がフライ返しでお好み焼きの焼け具合を確かめた。

「よっしゃ、そろそろひっくり返そか」

葉月はお好み焼き屋さんの使う大きなテコの代わりにフライ返しをふたつ使って、クルリとお好み焼きをひっくり返した。

ほどよい焼き色がついて、それだけでもうすでに美味しそうだ。

その様子を食い入るように見つめていた伊藤くんと瀧内くんが、また「おおーっ」と歓声をあげる。

「さすがですね、葉月さん」

「そんなんあたりまえやん、子どもの頃からやってるしな」

大阪では幼稚園くらいの子どもでも、タコ焼きをクルッと上手に回すと聞いたことがあるけど、大阪の家庭ではお好み焼きの英才教育もやっているんだろうか。

もしかしたら葉月の子どもも、小さな頃から“粉もん”の極意を仕込まれるのかも知れない。

葉月は焼き上がったお好み焼きにソースを塗り、マヨネーズとかつお節、青のりをかけて格子状に切り分けお皿に取り分けた。

「変わった切り方するんだね」

「お好みの切り方いうたらこれに決まってるやろ?」

「丸い物を均等に分けるには、放射状に切るんだと思ってたけど」

「それは“ピザ切り”っちゅうやっちゃな。お好みの切り方は絶対これやねん」

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