社内恋愛狂想曲
「しません。私にとって伊藤くんは“気の合う同期の伊藤くん”だからね。それ以上のことは考えられない」

キッパリと言い切ると、伊藤くんは何がおかしかったのか声をあげて笑いだした。

とうとう完全に酔いが回って思考回路がおかしくなってしまったのか?

本当に家まで送り届けるのだけは勘弁してほしい。

「何?私、何かおかしなこと言った?」

「ふーん……まぁ、今夜のところはそれでいいや。そうだ、晩飯に付き合ってくれたお礼にこれあげる」

伊藤くんはボストンバッグの中から菓子折りらしき箱を取り出して私に差し出した。

「取引先の担当者がお土産にって持たせてくれたんだけど、俺、この味が苦手なんだよね。荷物になって悪いけど、良かったら家で食べて」

「ありがとう……」

ピンク色の包み紙には“京都名物”“生八ツ橋”の文字が踊っている。

「出張って京都だったの?」

「そうだよ」

「ひとりで?」

「いや、橋口と一緒だった」

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