クールな次期社長と愛されオフィス
小さく息を吐いてボールに卵を割り入れる。

いつも通りにすればいいんだって思いながらちらっと彼の方に目をやると、こちらをじっと見ていた。

ドキン。

そんな真剣な目でこっち見ないでほしい。

まるで何かへましやしないか見張られてるみたいじゃない?

ドキドキしながらまたボールに視線を戻した。

彼の視線が気になりながらも、タマゴサンドが出来上がった。

白いお皿にいつものように盛りつけて男性の前に置いた。

「ありがとう」

彼は小さい声で初めてそんな言葉を言った。

どんな顔して食べてるのかみたいけど恐いような気がして、カウンターの前から離れた。

炊事場から、ちらっとのぞき見る。

よほどお腹が空いていたのか、彼は一気に頬ばって食べていた。

そんな姿にホッとする。

「ごちそうさま」

彼は律儀に手を合わせて私に言うと、財布からお金を取り出してカウンターに置いた。

「おいしかったよ、君のタマゴサンド」

あまりに突然に褒められて思わず彼の顔を凝視した。

「ただ、」

ただ?

「君の淹れる紅茶もタマゴサンドもおいしいけど、普通においしいだけだ。ここでしか味わえないオリジナルを強く出した方がこの店にとってもいいと思う」

オリジナルを強く出す?

彼はそう言うと、初めてふっと口元を緩めた。

「まだまだ改善の余地はあるよ。君なら出来るんじゃない?次来る時は期待しているよ」

彼は立ち上がると、何事もなかったかのように店を後にした。

しばらく呆然と彼の出ていった扉を見つめていた。

彼の言ったこと一体どういう意味なんだろう?

そんなこと言って帰るお客は今までいなかったから。

だけど、彼の言葉は全部自分の胸にひっかかっていた。

オリジナル。

確かにどれもどこかでリサーチした情報を元に作っているだけだ。

私だけの紅茶、私だけの料理。

わかったような事を言う彼は一体何者?


その翌日からその彼はぱったり店に来なくなった。

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