クールな次期社長と愛されオフィス
それから、毎晩のようにその男性は店に来るようになった。

座る場所もいつもきまってカウンターの端。

なるべく目立ちたくない様子で、おすすめ日替わり紅茶を飲み終えるとすぐに帰って行った。

何処の誰かも分からない、クールな彼はほとんど表情も変わらず物も言わず、気にならないと言えば嘘になるけれど。

そんな5日目の夜、彼はいつものようにやってきて定位置に座った。

両手を組み、私を見上げる。

この切れ長の目にも少しずつ慣れてきた。

「今日のおすすめ紅茶は、ウバとレモングラスのハーブブレンドティになります」

私はグラスを拭きながら彼に伝える。

「そうか。あっさりしていてよさそうだな。ついでに腹が減ったんだが何か食べるものはあるか?」

珍しく紅茶以外の注文をしようとしていた。

「食べるものは、カレーライスかサンドイッチ辺りになりますがいかがでしょう?」

また定番だな、なんて呟かれそうだなと思いつつ答える。

「君のお薦めは何だ?」

まただ。

私のお薦めとなるとなんだか試されているようで緊張する。

「私のお薦めは、タマゴサンドイッチです。朝取りの新鮮な卵を4つ使ってふわふわに仕上げます」

思い切って自分が作る当店人気のメニューを勧めてみた。

「ふん、タマゴサンドか」

しばらく彼は考えていたけれど、再び私に視線を上げてそれを頼んだ。

うわ。

本当に頼んじゃったよ。

「はい」

答える声が僅かに震えた。

彼のお口に合わなければそれまで。

ショックだけれど、自分の反省として次に生かせればいいか。

袖をまくり、卵を冷蔵庫から取り出した。


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