クールな次期社長と愛されオフィス
「急にどうしたの?」

切符売り場の柱にもたれながら尋ねる。

『元気してるかなぁって急に思い出してさ。今どうしてるの?』

「それなりに働いて、元気にしてるけど」

『へー、どこで働いてるのさ』

「丸宮珈琲店」

『え?何それ、アルバイト?』

少し見下したような言い方をした彼に思わずムキになって教えてしまった。

「宇都宮商事で秘書やってます。丸宮珈琲店はアルバイト」

『なにそれ、すごいじゃん、宇都宮商事で秘書なんてさ』

しまった。

副業してるのばればれだよね。

でも、副業禁止の会社かどうかまではわからないはずだし、適当にはぐらかしておこう。

「そんなことより、難波くんはどうしてるの?」

『俺?もちろん医者だよ。家の病院手伝ってる』

なんて彼は、さらっと言ってのけた。

『会いたいなぁ。アコきれいになってんだろうな』

「疲れたおばちゃんだよ。会わない方がいいと思うけどな」

電話の向こうで亮はくすくす笑った。

『そんなこと聞いたらますます会いたくなった。暇な日教えてよ』

今日はよく自分の休日を聞かれる日だと思いつつ、部長と並べるのは失礼だと思い直す。

「毎日忙しくて全く日がないわ」

会う気のない私は素っ気なくそう答えた。

『じゃ、さっき言ってた丸宮、珈琲店だっけ?珈琲飲みに行ってもいいかな』

さすがにそこまで駄目とは言えなかった。

「いいよ」

『わかった。じゃ、俺の都合ついたら丸宮珈琲店にアコの顔見に行くよ』

なんだか背筋がぞぞぞぞと寒くなった。

本当に苦手なのに。

医者だし、背も高くて、それなりにイケメンの部類だったけれど、私はあの性格には全くついていけなかった。

価値観の相違ってこうも顕著に出るものなんだと感心するくらい。

招かざる客がいつ店に現れるのか。

彼には不必要な情報を教えてしまったなと反省しながら改札を抜けて行った。
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