クールな次期社長と愛されオフィス
その3日後。

招かざる亮は、予告通り丸宮珈琲店に現れたのだった。

店に入ると、ミズキがすぐに私のそばに寄ってきた。

「アコさん、今日は随分前からアコさん待ってる男性が来てます。ほら、いつも部長さんが座ってるカウンターの席に」

「え?」

嫌な予感がしてそっと目線だけ動かすと、紛れもなく亮が座っていた。

真っ赤なバラの花束を脇の椅子の上に置いて。

本当に来ちゃった。

きどった態度でほおづえをつき足を組んでる姿は、あの時と全く変わらない。

きっと中身もほとんど変わっていないんだろう。

でも、一応今日はお客様として接さないといけないよね。

店のこと悪く吹聴されたら迷惑かけるし。

「いらっしゃいませ。来てくれたのね」

私はエプロンを着けながら、亮の前に向かった。

「あ、アコ。全然変わらないな。やっぱ俺の想像していたとおり童顔でかわいいままだ」

「童顔は余計ですけどね」

「これ、君に」

そう言って、脇に置いてあったバラの花束を私に差し出す。

回りの客の何人かが、ニヤニヤしながらこちらを見ている。

こんなところでバラの花束なんて何考えてるのかしら。

やっぱりお金持ちは考えることが変わってる。

私は苦笑しながら「ありがとう」とだけ言ってカウンターの裏に花束を置きに行った。

そして、カウンター越しに尋ねる。

「もう何か頼んだ?」

「珈琲を一杯だけね。やっぱりアコに淹れてもらいたいからさ。アコが淹れるものなら何だって構わない。頼むよ」

にっこり微笑みながら私を見つめた。

「じゃ、私のオリジナルブレンドティでもいい?」

「うん、それでいい」

何かが違う。

このテンポ感っていうか、会話回しというか。

少しだけ口元を緩めて私に聞こえるか聞こえないかの声で「うまい」って言う部長のクールな眼差しがつい脳裏に浮かんだ。

今日は来ないのかな。

沸かしたお湯をポットに入れながら、入り口の扉に目を向けた。

まだ来る気配はない。

軽くため息をつき、先日部長にも出したオリジナルブレンドティを亮の前に置いた。

「はい、オリジナルブレンドティ。このお店でも人気があるの」

「へー、いい香りだね。さすがアコ」

あまりに軽い口調で言うものだから、本気で言ってるのかどうかは疑わしい。
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