クールな次期社長と愛されオフィス
しばらく続く小道を進んでいくと、急に目の前が明るく広がった。

「素敵!」

思わず感嘆がもれるほどの美しい日本庭園が広がっている。

石庭と緑とそして花。

庭の向こうには山脈が連なっており、庭と一体化して見事な景色を作っていた。

こんな広い敷地に日本庭園を造ろうと思ったら、どれだけ計算されつくされた配置なんだろう。

どの場所からの眺めも一寸の狂いもない居心地の良さを私達に与えてくれる。

なのに、誰もいない。

いるのは私と部長2人だけ。

「今日は誰もいないんですね。日曜だというのに」

「ああ、午前中だけ貸し切りにしてるからな」

「か、貸し切り?!」

静かな庭園に素っ頓狂な声を響かせてしまい、慌てて自分で口を押さえた。

「ここは俺のお気に入りでね、よく貸し切りで来るんだ」

貸し切りって、こんな有名な庭園を?

さらっと言ってしまう辺りはやはり宇都宮一族所以なのだろう。

贅沢な空間を独り占めなんて!

私は思いきり息を深く吸い込んでゆっくりと息をはいた。

部長と貸し切りの美しい庭園を眺めながら歩いている。まだこの状況に現実感がないまま。

でも、ふと見上げたさきにある部長の横顔は普段仕事をしている時よりも穏やかだった。

お気に入りの場所がきっと日頃の疲れを癒してくれてるんだろう。

歩きながら、時々そんな部長の横顔を盗み見ていた。

その時、ふいにそんな私と部長の目が合ってしまい慌てて目をそらす。

「貸し切りにするなんて、やっぱり宇都宮一族のすることはわからない、なんて思ってるだろう」

部長はにやっと笑いながら言った。

「ええ、まぁ。でも、それよりも部長もお疲れなんだなぁって」

「お疲れ?」

「この場所で癒されているってことですよね?普段の仕事や人間関係見てたら相当お疲れなんだろうなって思ってました」

部長は口元を緩めたまま前を向いた。

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