クールな次期社長と愛されオフィス
ようやく会話の糸口が見えてホッとしながら部長に話し掛けた。

「これからどちらへ」

「うん。この近くに石見一斉の作った日本庭園があってね」

「石見一斉?あの世界的に有名な庭師の方ですよね?」

「ああ、よく知ってるね。その通り」

最近、雑誌でもよく取り上げられている有名な庭のデザイナーだ。

世界中に日本庭園をその土地にあった植物で見事に表現するというので有名。

将来自分のカフェをもつ為に、結構デザイン関係のトレンド情報はいつもリサーチしているんだよね。

「一度観たかったんです。石見さんのデザインしたお庭」

「それならよかった。さぁついたぞ。ここだ」

車は山の麓に作られた広い駐車場に停まった。

広い駐車場には部長の車だけがポツンと停められている。

他に観光客いないの?日曜日だっていうのに?

庭園の入場口に向かう。

入り口に立っていた人が部長の姿を確認すると、深々と頭を下げた。

「お待ちしておりました。どうぞごゆっくりなさって下さい」

お待ちしておりました?

違和感のある係員の対応に首を傾げながらも、会釈しながらその前を通って行く。

「あの、」

思い切って部長の後ろ姿に尋ねる。

「入園料は?」

部長は前を向いたまま答えた。

「いらない」

いらない?!

それって、ひょっとして顔パスとかそういう類のですか?

思わずごくりと唾を飲み込み、部長の後に続いた。
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