クールな次期社長と愛されオフィス
部長の手はものすごい力で私の体をその胸に引き寄せた。

夢の中で薫っていたいい香りがする。

白いシャツから部長の胸元が見えて、すぐに目を逸らした。

「行くな」

部長の少しかすれた声が耳元で聞こえた。

ドキドキが止まらない。

これは一体、どうなってるの?

私、今部長の胸に抱きしめられてる?

これは、夢の続きだ。そう、間違いない。

早く夢から覚めなくちゃ。

自分の目をぎゅっと強く閉じて、再び大きく見開いた。

幼い頃、よくやっていたように。

でも、大きく見開いたところには部長の熱い眼差しがそのまま存在していた、ってことはやっぱり夢じゃないんだ。

「や、止めて下さい」

思わず声に出した。

これもきっと私をからかってるだけ。今日の部長は冗談が過ぎる。

「止めない」

部長はそう言うと、一層強く私を抱きしめた。

部長の体が熱い。

「アコ、俺のそばにいてくれ」

急に自分の名前を部長に呼びすてにされて、頭の中がショートする。

私どうなっちゃってる?

「お前が好きだ」

形のいい部長の唇が私に近づいてくる。

「ぶ、部長!だめです!」

衝動的に私は部長を突きとばしていた。

私に押された部長はベッドにストンと腰を下ろす格好になる。

うわ。

部長を突きとばしちゃった。

私の顔を目を丸くして見上げる部長を見ながら我に返る。

「あ、すみません!突きとばしちゃって」

上司を突きとばすなんてなんてことしちゃったんだろう!両手を口に当てて何度も頭を下げた。

「ほんと、お前って」

部長はそう言うと片手で顔を覆って肩を振るわせて笑った。

「君みたいな女性は初めてだ。一緒にいると自由で心から満たされた気持ちになる。俺が宇都宮の人間であることを唯一忘れさせてくれるのがアコ、お前だなんだ」

そして再びベッドから立ち上がると、今度は優しく私を抱きしめた。

「誰だって一人じゃ力が及ばないこともある。俺にはアコが必要だ。上司としてではなく宇都宮湊とういう一人の人間のアコになってくれないか」

部長は私の後頭部を大きな手のひらでそっと撫でた。
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