クールな次期社長と愛されオフィス
「そんなの信じられません。部下をからかうにもほどがあります!」

「からかってなんかない。俺の正直な気持ちを伝えただけだ」

そう言うと、部長は私を自分の胸に引き寄せて強く抱いた。

部長の胸の中で、このまま流されてしまいたいという気持ちを何とか振り切って言葉を繋げる。

「例えそれが本当だったとしても、部長とは住む世界が違いすぎるし無理です」

「無理かどうかはアコが決めるんじゃない。俺が決める」

「そんな!」

そう言い掛けた私の口が部長の唇で塞がれた。

優しくて熱くてほんのり珈琲の香りがする。

唇がゆっくりと離れた。

部長の少し潤んだ熱い瞳。

こんな部長は初めてだった。

その目は私も体が動けなくなるほどに美しくて甘くておかしくなりそうだった。

「ずっとここにいてほしい」

「ここに、ですか?」

「ああ。片時も離れたくないんだ。アコがきちんと俺に気持ちが向くまでは何もしないと約束するから」

何もしない?

って、それって。

想像して顔が熱くなり、部長から目を逸らした。

「まぁ、キスくらいは無理矢理させてもらうけどな」

そう言うと、私の顎をつかみまたやわらかく私の唇を包んだ。

さっきよりも甘くて深くて長いキス。

キスを受けながら、嘘でしょ?って何度も心の中で叫んでいた。

部長が私のこと本気で?

まさか、だよね。

私の心は完全に部長一色に染められていった。

もうどうしたって止まらない。

その問いかけに返事なんか必要はなかった。



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