クールな次期社長と愛されオフィス
翌日の夜、友江さんと駅で待ち合わせて予約を入れた居酒屋へ向かった。

友江さんは初めて出会った日と変わらないナチュラルメイクで、服装も麻のシャツとゆるパンツといたってシンプル。

キュッと後ろに束ねた髪は少しだけ明るい色に染められていた。

それは、カフェのスタイルをそのまま生きているような姿。

肩に力を入れず、自分の生き方を貫けているトモエさんを素敵だと思う。

そんな風にいつか私も生きていけるんだろうか。

今は迷いと不安と自信のなさが一気に膨らんでいるから。

「東京へはよく来られるんですか?」

生中の入ったグラスを合わせながら尋ねる。

「ええ、時々ね。東京には刺激がいっぱいあるから。たまに自分のやってることに不安になるときがあるの。そういうとき来る場所ね」

「え?友江さんでも不安になることあるんですか?」

「あるわよ。いつも不安だし、これでいいのかなぁって思ってるわ」

ビールのグラスをカウンターに置くと、私の方に優しい目を向けて笑った。

「私の上司から、友江さんは小樽では有名なアイデアマンで通ってるって聞いてます。それだけアイデアが溢れる才能をお持ちなのにどうして不安になるんですか?」

「アイデアマン?誰からそんなと聞いたのかしら。アイデア一つ絞り出すのにどれほどの時間がかかってるか。私にとってはそんな簡単なことではないわ」

そう言いながら友江さんはわざとらしく眉間に皺をよせたけれど、私にはそれ自体に彼女の余裕を感じてしまう。

「アコさんは、その後どう?新しいブレンドティの開発やカフェの構想は進んでる?」

運ばれてきたおつまみを口に入れると、苦笑しながら首を横に振った。




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