秘める二人の、叶わぬ恋の進め方。
いつも冷静なお母さんが珍しく動揺するような声を上げた。
『それは全然嬉しい。でも‥』
「柊ちゃんと、
別に喧嘩したとかそういうんじゃないよ。
言ってなかったんだけど、柊ちゃんにいい縁談があって。それでこの間お見合いもして、婚約するかもしれないの。だから、いつまでも一緒に住んでる訳にはいかなくて」
自分でも驚く程に冷静に話せた。
‥‥と、思ったけれど。
『若菜は本当にそれでいいの?』
「えっ?」
思わぬ切り返しにすっとんきょんな声が漏れた。
『私はてっきり、若菜を貰ってくれるのは柊君だと思っていたんだけど』
淡々としたその言葉に息を飲んだ。
そんな風に思われてたんだ‥。
確かに、もうすっかり大人になった私達は男と女であることに違いなくて。二人で同居をしていたんだからお母さんがそう思うのも不自然ではないのかな。
他人から見れば、
私達は世間の常識から外れてた事をしていたのかもしれない。
「私と柊ちゃんは、そういうんじゃないよ。」
答える声は、自分でも情けない程に力ない。
『‥‥そう。いつ帰ってくるの?』
「もう、明日とか明後日とかには帰れそう」
電話の向こうで、だいぶ急なのねと言ってお母さんが笑った。