理系教授の秘密は甘々のはじまり
「おい、待て」

離れへの通路で真澄が追い付いた。二人分の下駄の音だけが周囲に響いた。

「波実、どうして一人で行くんだ。また、変なやつに絡まれたらどうする」

「真澄さんこそ、女将さんを置いてきていいんですか?」

波実は歩みを止めず、真澄の顔も見ずに言った。

「波実」

「なんですか?」

「もしかして妬いてるのか?」

突然の真澄の言葉に、波実の全身の血がたぎるのがわかった。

「妬いてなんか,,,」

妬いてる,,,?妬いてるのかもしれない,,,。
確かにこの状況ではそのように解釈できる。

この二日間、真澄は波実に気があるふりをしてきたくせに。

それなのに、本命の女性のところに連れてきて、仲の良いところを見せつけるなんて,,,。

そんな思いが波実の心を渦巻いていた。

「まさか、図星か?」

立ち止まった波実の顔を真澄が覗き込む。真っ赤になって自問自答する波実をいとおしげに真澄が抱き締めた。

「あれは、俺の従姉妹だ」

驚いて真澄を見上げた波実が、自分の勘違いに気づいて更に真っ赤になる。

「やっと俺の想いに追い付いてきたってわけか」

真澄は抱き締めている波実の背中を撫でた。

「こんなに色気丸出しで。浴衣なんか外で着せるんじゃなかった」

その言葉で、ようやく真澄が男達にやきもちを妬いていたことに気づいた。

波実の心があたたかい何かで満たされていく。

周囲はすっかり日が陰って、通路と中庭に設置された電灯が二人を照らしていた。
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